薬草探し1

――王都ロンド周辺 アッシュリッジ・フォレスト


 グリフォンに乗って王都近くの森までやってきた。アリサちゃんは僕の腰にしっかりと抱き着き、僕は背中にあたる柔らかい感触を楽しみながらの空の旅だった。


「着いたよ!」

「早い! 私たちが昔四人でここに来た時は結構かかったのに、グリフォンだとすぐですね!」


 僕はグリフォンから先に降りて、アリサちゃんが降りるのを手助けする。


こんなことしなくても、アリサちゃんはニンジャエルフだからものすごく身軽なのだけれど、レディーファーストというやつだ。


 そういえば、この世界、文明の利器が全然発達していないのだな。


魔法があって便利だからたまに忘れそうになるけど。


 まぁ、どうせ友達も居なかった身のため、スマートフォンや車がなくても問題はない。


「ちょっとちょっと! あなたたち二人、良い雰囲気だしてるけど、わたしも居ることを忘れないでよね! このSランクペットのフェアリー・リエが!」

「リエちゃんかわいいよね。こんにちは!」


 僕がアリサちゃんをエスコートしているのが気に食わなかったのか、僕の頭の上で休んでいたリエが急に不機嫌になりだした。


「リエのことを忘れるわけないよ。頭が重くって仕方なかったし」

「ふんだ!」


 リエがすっかり怒りモードだ。最近は口や態度の悪さも収まってたと思ったのに、また戻っちゃったな。


まあ、いい。


「それで、薬草は見つかりそう? アリサちゃん」

「あ、大丈夫! ちゃんと調べてきてるから!」


 アリサちゃんはそう言うと、僕と繋いでいる手を引っ張って走り出した。

僕は離されまいと同じように走り出す。


「解熱薬になりそうな薬だよね。ユキちゃんの容態はどうなの?」

「ユキは40度の熱でうなされてるから、早く持って帰ってあげないといけないよ。シュンさんのおかげで随分早く森に着いたから、これならずっと早く帰れるね」


 アリサちゃんは僕の手を引っ張りながら森の中をさくさくと進んでいく。時折、足元の草を見ては、これは違う、これは違うと言って探しているようだった。


 僕は薬草に詳しくないから、一体どれが薬草なのかちっともわからなかった。


「あ、あった! ありました、シュンさん!」


 アリサちゃんが指を差したところを見ると、確かに他の草とはちょっと違う草が生えていた。


 しかし、その上には大きな蜂がたくさん居た。


「虫型の魔獣だね…レベルは12か。アリサちゃんじゃちょっと厳しいね」

「そんな……。以前来た時は魔獣なんていなかったのに」

「誰かが薬草を独占するために魔獣を誘き寄せたんじゃないかな。それよりも、薬草の上には10匹ぐらいだけど、おそらく巣が近くにある。ひょっとすると数百匹居るのかも。あの蜂の魔獣は地下にも巣を作るから、外に出てきている蜂だけ見ててはいけない」

「そんな……! ユキが苦しんでるのに。わたしたちだけじゃダメかも……」


 いつも元気はつらつなアリサちゃんが今日ばかりは焦って動揺と困惑が入り混じった感情が全面に出ていた。本当に心配しているんだな。


「アリサちゃん、大丈夫。僕に任せて! 召喚! オルトロス!」


 僕は地面に召喚陣を描き、オルトロスを召喚した。


「二つ首の犬? 以前のケルベロスとは違うんですか?」

「ケルベロスは三つ首で火炎、吹雪、電撃を操るんだけど、オルトロスは二つ首で火炎のみなんだ。その代わり、火炎の威力はケルベロスをも上回る。だから、火に弱い相手にはケルベロスよりもずっと優秀なんだ」

「そうなんですね! シュンさん……頼りになりますね、本当」


 アリサちゃんが動揺から涙を流していたがそれを拭って微笑んでくれた。


 元気娘だと思ってたアリサちゃんがこうも脆くなっているなんて、なんだか貴重な体験をしている気がする。


「とにかく、アリサちゃんは僕とオルトロスの後ろに居て。リエ! しっかり後ろを見張っていてくれよ!」

「はいはい。シュン、わかったわ」


 リエが返事をしてくれた。これで後ろの憂いなく目の前の大蜂だけに集中できる。


「いけ!オルトロス! 猛火炎!」


オルトロスは二つの頭の口に炎をあふれ出させ、そしてそれを一気に吐いた。


「送還ドッペルゲンガー! 召喚ウンディーネ! ウンディーネ、水の泡で薬草を護ってくれ!」


 僕は薬草がオルトロスの火炎で焦げてしまわないように、ウンディーネを召喚して水の泡で守ってもらうように命令した。


 王都ではドッペルゲンガーが僕の代わりに働いていたはずだけど、召喚コストが足りないので至急送還したってわけだ。


 水の泡で地面が護られ、オルトロスの猛火炎を受けてもなんとか無事だった。


 オルトロスが上空に居た大蜂を全て焼き払ったが、やはり近くに巣があったようで、地面や森から次から次へと大蜂がやってきた。


「シュンさん……!」


 アリサちゃんが息をのむ。ぎゅっとアリサちゃんの手を握り、小声で大丈夫とアリサちゃんに語り掛ける。


「オルトロス! 炎柱!」


 再びオルトロスの口に炎があふれ、それを柱状にして、辺りに吐く。炎の柱がウンディーネが護っているところだけを避けて、回っていく。森や地面ごと炎の柱は大蜂を焼き払っていく。


「ふぅ、これで全滅かな?」

「やった! シュンさん、すごい!」


僕の後ろに居たアリサちゃんが僕の前に来ようとする。


「あ、シュン!危ない!」

「アリサちゃん!」


僕の前に来たアリサちゃんを咄嗟に抱きこむようにして庇う。僕の背中に大きな針が刺さった。


「ぐあっ!」

「シュンさん!」

「シュン!」

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