病気と薬

――翌日


「じゃあ、ジャスタスさん。あとは宜しくお願いします。一応、僕のドッペルゲンガーを置いていきます。『強さ』以外は僕そっくりなので、わからない事があれば聞いてください」


 僕はジャスタスさんに業務の引き継ぎをした。細かいことはドッペルゲンガーに聞いてもらおう。


ここ数日の利益を見る限り、ジャスタスさんとアルバイトさんたち四人の給料を払っても充分な利益が出る。


ジャスタスさんも張り切っているし、お任せで大丈夫だろう。


それじゃ僕はクエストに出かけるために、アリサちゃんたちの寮に向かわないと。


「リエも、もう外に出てきて。一緒についていくだろ?」

「ぷぁ~。いくらSランクペットのフェアリーで目立つからって革袋の中にいつも入れられたままなんてフェアリー権の侵害よ!」

「そんなに怒らないで。悪かったって!」


 アリサちゃんたちの寮に向かう間、ずっとリエは不機嫌だった。ぶつくつさと文句をいうたびに、僕は謝った。


フェアリーのリエは、僕が日本に住んでいたことを知っている貴重な存在だ。リエが居たからこそ、この世界で必死に頑張れたようなもの。多少ぶーたれられても、許してあげないといけないんだ。


「シュン~。お腹すいたぁ。ごはん~、ごはん~」

「シュンの役立たずぅ。ごはんは~。シュン」


許してあげないといけないんだ。


「シュン~。私のいう事聞きなさい~」


許してあげないと……。


「やーい、お荷物のシュン~」


泣。


――王都ロンド 王立女子寮


「あれ、シュンさん! 早いですね! どうしたんですか? 落ち込んでるようですけど……」

「ああ、いや。何も問題ないよ、アリサちゃん。ところで、他の皆は?」


 僕はリエに泣かされて涙跡のついた頬を袖でぬぐって、アリサちゃんに声をかけた。アリサちゃんは寮の前でストレッチをしていたようだ。


「実はユキが熱を出しちゃって。最近ずっと出かけっぱなしだったから疲れがでたんだと思います! メイムはユキのためにおかゆを作ってます。わたしは、これから森に薬草を採りにいこうと思って準備してたんです!」

「へ~そうなんだ。あれ、シーナちゃんはどうしたの?」


 ユキちゃんが熱を出してしまったらしい。やはり仕事の方はジャスタスさんとアルバイトさんたちに任せて正解だった。


 この娘たちは冒険者になったばかりの18の少女たちだから無理は良くない。


「シーナはユキと一緒に居る!って聞かなくて。ずっと手を握っています。シーナはああ見えて優しいんです」

「そっか。じゃあ、アリサちゃん、僕と二人で薬草を採りにいこうか。回復魔法は病気の時は逆に酷くなっちゃうし、王都の薬屋は高いからね。商売を始めたばかりの僕たちではちょっと手がでにくいね」


 僕はアリサちゃんと薬草を採りに出かけることに決めた。薬を買ってもいいのだけど、どうせ冒険に行こうとしていたところだ。


 この世界の病気は地球と同じく風邪やら○○病やら色々あって、医者も居る。回復魔法は魔力で体力と傷を回復させるものなので、病気には無効どころか、逆に病気を活性化させてしまって危険なんだ。


 だから、この世界でも医者や薬師は需要が高い。


「シュンさん……。いつもありがとう」


 元気娘のアリサちゃんの顔から一瞬涙が流れた。


 いつも元気はつらつのアリサちゃんが涙を流すなんて、本当に仲間想いなんだな。きっとユキちゃんが倒れたことでアリサちゃんの精神にも影響があるんだろう。そうでなければ、アリサちゃんが涙を流すほど僕に感謝するなんてのはあり得ない。

 アリサちゃんのいつもとは違った面を見れて良かった。ちょっとだけ絆が深まった気がする。


 アリサちゃんが僕の手をそっと握ってくる。僕はその小さな手を握り返した。


「それじゃ、森に行こっか」

「うん!」


 こうして、アリサちゃんと共に森へ薬草を採りに出かけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る