二人きりのクエスト
――王都ロンド 王立女子寮
「じゃあ、僕はここまでだね。王立女子寮は男子禁制だから。ユキちゃんによろしく言っておいて!」
「わかりました! 本当にありがとうございました!」
深々とお辞儀をするアリサちゃん。森の中で一瞬見せた寂しげな顔はもう見られない。
「また、明日様子を見に来るから。ユキちゃんが元気になったら全員でレベルアップしにいこう!」
アリサちゃんは元気いっぱい頷いて笑顔で見送ってくれていた。僕は鑑定眼スキルでアリサちゃんのレベルを確認したところ、レベル15になっていた。
「アリサちゃんだけレベル上がっちゃったなぁ。さすがにあれだけの大蜂とレベル28の女王蜂を二人だけで倒せばレベル5も上がるよな。シーナちゃん、ユキちゃん、メイムちゃんのレベルも上げてあげたいな」
「ちょっとシュン! 義勇兵志願のこと忘れてないわよね? ちゃんと王都の兵舎に行って志願書を出してくるのよ」
「わかってるよ、リエ。まだ時間には余裕があるよ。まずはレベルアップから」
僕は帰りに事務所へ寄って、ドッペルゲンガーが居なくなった理由をジャスタスさんに話しておいた。
ジャスタスさんが言うには、すっかり皆作業になれたから、ドッペルゲンガーが居なくても大丈夫だということだ。
今日の稼ぎのうち、僕の取り分を受け取って、僕は自宅へ戻った。
――翌日
翌日、僕は朝早くに王立女子寮へ向かった。ちょうど、商店の倉庫内に花束が仕入れられていたから、ジャスタスさんに言って僕が購入した。
スローン・ストリートから王立女子寮までは数キロの距離がある。王立の施設は王宮直下の敷地に固まっていて、スローン・ストリートは僕の実家、スローン公爵の土地だ。
僕は歩いていくのも疲れるだけだからペガサスを召喚して王立女子寮へ向かっている途中だ。
空から眺めると王都が洗練された街並みなのがよくわかる。ペガサスに気付いたのか、町の住人が手を振っている。
僕が最近調べた限りだと、王都に召喚士は僕一人だけらしい。王都以外には、たまに召喚士が居るそうだが、競争の激しい王都では晩成型の職業は敬遠されるのだそうだ。つまり、ペガサスやグリフォンに乗っている姿はとても珍しいのだ。モンスターテイマークラスなら僕のように魔獣をテイムして乗ることも可能だが、ほとんど見かけない。
ペガサスに乗っていくと、数キロの道のりもあっという間だ。もう王立女子寮が見えてきた。僕はペガサスの手綱をひき、スピードを落とした。
ひひぃん、と一鳴きして、ペガサスは王立女子寮前に止まった。
ペガサスの鳴き声で気付いたのか、女子寮からアリサちゃんが出て来た。
「あ、シュンさん! おはようございます!」
「おはよう、アリサちゃん。ユキちゃんの容態はどう?」
「もうすっかり良くなりましたよ!」
昨日寮に戻ったあと、すぐにユキちゃんに薬草を煎じた飲み薬を与えたら、すぐに回復していったそうだ。
「うん、それは良かったね。アリサちゃんも疲労が溜まっているだろうから、今日はゆっくり休んだ方がいいよ。今日はシーナちゃんとクエストをこなしてレベル上げしてくるよ。アリサちゃん、シーナちゃんを呼んできて」
「はい、わかりました。ちょっと待っててくださいね!」
アリサちゃんは元気そうに見えるが、昨日の事もあるし疲れが溜まっているのは間違いないだろう。ユキちゃんも病み上がりだし、メイムちゃんは回復魔法を使えるし、アリサちゃんとユキちゃんの様子を見てくれる人が必要だから、今日はシーナちゃんだけを誘ってクエストに出かけるのだ。
「シュンさん、わたしはついていっちゃダメなんですか?」
「アリサちゃんも疲労が溜まってると思うよ。今日はユキちゃんとメイムちゃんと三人でゆっくり休んでてほしいな。パーティーメンバーとしてのお願いかな」
「シュンさんは、昨日の毒と針の傷は大丈夫なんですか?」
「僕はもう慣れっこだから、大丈夫だよ。レベルが上がると身体も強化されるからね。アリサちゃんたちはまだレベルが低いから一般の人たちと耐性もそう変わらない。熟練の冒険者になると全体的に耐性がつくから頑丈なんだ」
「そう、なんですね。シュンさんがわたしを庇ってくれたのに……、わたしが休まなくちゃいけないんですね」
いつもの元気娘の表情ではなく、大人めいた表情にドキドキする。僕は、アリサちゃんにやっぱりついてきてもらおうかな、と思ったその時。
「おにーさん! 昨日はアリサと二人きりでずるい! アリサレベル15になったって自慢するんだもん! 今日はうちと二人きりだからね! メイムが来たがってたけど、今日はうちとだけ! そう決めてるんだもん!」
ここでシーナちゃんが登場だ。いい雰囲気だったけど、仕方ない。
「シーナちゃんわかったよ。アリサちゃんはゆっくり休んでね。ユキちゃんとメイムちゃんにもよろしく!」
「やったー! おにーさん好き!」
シーナちゃんが僕の腕に絡まってくる。ぽんぽんと頭を撫でて、僕たちは冒険者ギルドに向かった。
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