召喚士でやり直し

――異世界ファンタジア 王都ロンド


 目が覚めた。俺は床に寝転がっていたらしい。


 床は血まみれだ。右手にはナイフが握られ、自分の服の胸元は破れ、そこも血まみれだ。

 

 頭の中に響いた声が言ってたな。役立たずだから追放されて、自暴自棄になって自殺した、と。


 なるほど、その自殺した奴として転生させられたのか。しかし、改めて考えてみると異世界ってなんなんだ? 日本じゃないのか?


 俺はとりあえず、服を着替えて部屋を片付けることにした。部屋を物色したが、なかなか綺麗にされている。


 部屋の中は血だまりが出来ている以外は、荒れておらず、こざっぱりしている。


ベッドがあり、その傍にクローゼットがあった。そこを開くと、いくつかの服があった。クローゼットの下部には木箱がおいてあり、そこには下着が入れられていた。

 

 几帳面な性格だったのか? 几帳面で真面目だったけど、へたれだから転職を繰り返して役立たずとなった、ということなのか? 


 そういえば、この異世界で転職とはどういうことなのだろう? 職があることはわかるが、サラリーマンではないことは間違いない。まあ、それは今考えることではないな。

 

 クローゼットとは別に宝箱のような箱が置いてあったので、開けてみると、ナイフやら甲冑やら、いろいろ入っていた。これは、冒険に着ていく装備品か。


 そのまま部屋の中を探っていると、綺麗な小箱を部屋の中で見つけた。何やら、レアアイテムが入ってそうだ。俺はそれを開けてみた。


 綺麗な小箱を開けると、そこには羽の生えた女の子が寝ていた。俺が顔を近づけて、その女の子に近づくと、急にその女の子は目を覚ました。


「気色悪い顔近づけんなよ、ニンゲン」


 羽の生えた女の子は目覚めると、羽をはばたかせて飛び、俺の頭の上からそのような言葉を吐いた。


 俺が唖然としていると、更に畳みかけてくる。


「何、間抜け面してんだ、ニンゲン。お前、あれだろ。女神様が最後に良いことをしたから、このまま死んでしまうのは可哀想と言って、こっちで死んだ奴に魂を転送させた奴だろ。名前はなんていったか、確か竹中平吾だったな。平吾、まあ、この異世界は命の保証さえされない世界だから、お前の居た世界より厳しいぞ。とりあえず、この私がしっかり案内してやるから頑張れよ」


「え、あ、ああ」


「そこは『うん』の方がいいぞ。お前の世界では38歳のおっさんだったかもしれんが、今お前が入っている奴はまだ20だ。すごいだろ、まだ20でも転職繰り返して弱いスキルしか使えないからってパーティー追い出されたんだぞ。まぁ、そいつ生まれは貴族で、そのことを利用しようとしていた奴らがいつの間にかSランクパーティーになって、そこに所属していたから、当然っちゃ当然か。パーティーの他の奴らは一つの事を極めた『スペシャルクラス』ばかりだったからな。基礎クラスばかり修得していたそいつではついていけないだろうよ」


「あ、そうなのか。この今の体の人は一体どんな人だったんだ? もっと詳しく教えてくれ」


 俺はこの慇懃無礼な羽の生えた小さな女の子にとにかく懇願した。教えてほしいことだらけだったからだ。


 ゲームやアニメが好きだったし、ライトノベルもよく読んでいたから今のこの事態にそう抵抗なく受け入れられているけど、やはり情報がほしい。少しでも知っているのなら、この女の子から聞いておくべきだ、と判断した。


「私には敬語で話せよな。お前よりはるかに長い時を生きているんだ。ちなみに、私はフェアリーのリエだ。これからよろしくな。まぁ、気色悪いツラなんて言ったけど、今のお前はまあまあイケメンの部類に入る方だ、あとで鏡みとけ。あと、名前は『シュン』というそうだ。生まれは王都に家を持つ貴族だったが、貴族の四男として生まれたから家を継ぐわけではなく、冒険者になったという生い立ちだ。だが、家とは別に仲が悪いわけではないから、たびたび支援を受けていた。そういうこともあって、パーティー内じゃ嫌われていたんだろうな。他のパーティーの奴らは貧しい出の中、一つの道を極め、Sランクパーティーまで昇りつめたんだから。一つの道を極めるためには、あらゆる競争に勝たなければなれない。全ての者の中で頂点にならなくてはいけないからだ」


 そこまで話すと、フェアリーのリエは、俺の、いや、僕の肩に乗った。そして、僕の耳元でまた話を続けた。


「じゃあ、私も普段の話し方に戻すね。それでね、『シュン』のパーティーなんだけどね。この王都ロンドでトップのSランクパーティーなの。屠った魔物は万を超えるといわれる世界最強の剣士イドリオ、どんな魔物の攻撃も防ぐ最硬の重騎士エグバート、この世で扱えない魔法はないと言う世界最大の魔法使いアーサドラ、そして、あらゆる傷を癒し、慈悲と慈愛に満ち溢れた世界最高の僧侶ステフィア。この四人が『シュン』、あなたのパーティーだったの。でも、あなただけ20歳にもなって、いまだに基礎クラスしか修得していないお荷物だったから、追放されちゃったね。これからは、自分の身の丈にあったパーティーで冒険を続けるしかないね。家族もSランクパーティーに居た息子を誇りに思ってたのに、さぞや落胆したことでしょう。でもね、家族はあなたに生きていてほしいと思ってたよ。だから、あなたはこれから、人生をリスタートするの。ね、私も精一杯あなたを支えるから、頑張ろう、ね?」


 僕は涙が出てきた。


 そうだ、僕はまだまだ死ぬわけにはいかないんだ。


これから、人生をやり直すんだ。


そう誓った。


 僕は、宝箱に入っていた能力の石板というものを持ち、力を込めた。


「能力の石板は、あなたの現在の能力を記したもの。あなたがそれを持って、念を込めることで、石板に能力値やスキル、修得クラス、現在のクラスなんかが表示されるようになっている。今のシュンのクラスは『召喚士』のレベル1だね。私はSランクパーティーの時に入手したSランクペットのフェアリーだけど、『召喚士』なら他にも私のように連れ歩くことができるものが増えるよ!」


 僕の能力値は全般的に低かった。おそらく転職したて、だからだろう。


 他に修得しているクラスは、『盗賊』レベル10、『鑑定士』レベル10、『狩人』レベル10、『商人』レベル10だ。


 レベルというのは大体同じ職について1年間必死に頑張ってようやくレベルが1上がるかどうかというところだ。才能があり、良い経験を積むと比較的早く上がる。


 ちなみに、僕のパーティーだった世界最強の剣士イドリオは剣士レベル40、スペシャルクラスの『二刀流剣士』レベル40という化け物のような存在だった。


 他のパーティーメンバーも大体そんな感じだ。


 僕は自分で戦うのが苦手だったから、パーティーのサポートメンバーになろうとしたけど、いろいろと壁にぶつかり、比較的楽にレベルが上がる基礎クラスのレベル1からやり直してたんだ。


 それで、ここまで中途半端な能力になったというわけさ。とフェアリーのリエが説明してくれた。


「召喚士レベル1はね~。おっきなワンちゃんを召喚できるよ! 狼レベル1だね。まぁ、この世界の冒険者はレベル1でも武器防具を装備して狼ぐらいならやっつけちゃうぐらいだから、サポート程度だけどね。召喚士レベル1のスキルは、『狼召喚』と『召喚生物回復』の二つだけ。召喚したワンちゃんを回復するだけしかないから、本人はあんまり強くないね。シュンは、商人や鑑定士もある程度レベル上がってるから、お金には困らないね。それに、盗賊と狩人もある程度のレベルがあるから、弓やナイフの扱いもうまいし、なかなか良いんじゃないかな」


 極めたクラスはないけれど、いろいろなことをちょっとずつ出来るおかげで、一人で生きていくことや、初心者パーティーでは役立つそうだ。


 僕は、とりあえず、世界に慣れるまでは一人でレベルを上げて、それからパーティーに加入することにした。


 もう、パーティーを追放される、役立たず呼ばわりされるのは御免だ。

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