スパイ作戦

「お前たちの心意気はわかった。なら、話すぞ。海を超えた地の大国フル=フランとの戦争が間近だというのは知っているな? 我が国は海軍こそ世界最強とも言われるほどの戦力だが、陸や空からの攻撃には滅法弱いのだ。対して、フル=フランは海軍はほとんどないも同然の戦力だが、強力な飛竜を操る竜騎士がいる。奴らが空から攻撃してくると、ひとたまりもない」

「そんな……。竜騎士とはそこまで強いのですか?」

「ああ、強い。我が国で立ち向かえるのはそれぞれの騎士団長と副長、あとはSランクパーティーの面々ぐらいだろう。あとは、お前たちだな。そこで、だ。お前たちパーティーに重要な役割を与えたい。軍事大国フル=フランの内情を探ってきてほしいのだ。幸い、お前たちは戦力の割りに全く誰にも知られていない。スパイには好都合なのだ」


僕たち全員面くらった。ふと扉の方をみると、キトラと目が合った。彼はこの事を知っていたのか。


「スパイだなんて……。僕たちにそんな大それたことできるかどうか」


王女様はふふんと鼻で笑い、答えた。


「強さならシュン・スローンは充分だ。それに彼女たち多種族の者たちも打ってつけだ。フル=フランも多種族からなる国だからな。我が国よりむしろフル=フランの方が合っているぐらいだぞ、君たちパーティーは。名を知られていない今なら、フル=フランに行っても誰にも疑われずに済む。大丈夫、そこのキトラをお供につける。連絡は全てキトラを通してするから、君たちは誰にも疑われない」


僕たちはあくまで普通にフル=フランで暮らしていればいいということか。王女様への伝達係は本物の軍関係者のキトラが行うと。


「わかりました。その依頼受けましょう。しかし、私たちはどうすれば良いのです?フル=フランへの渡り方もわからない」


王女様は僕が依頼を受けることがわかっていたように笑っていた。


「もうすでに向こうには一人派遣している。私の右腕のような者がいるんだ。名前をアイシャという。もう長い間フル=フランで情報収集を行なっている。そのアイシャの手助けをしてほしいんだ。フル=フランが戦の準備をしているという情報もアイシャからの情報だよ。それでは、シュン・スローンと仲間たちよ。フル=フランにわたる準備をしてくれ。戦まではもう時間があまりないぞ」


随分急だが、仕方ない。もともと義勇兵に志願するつもりだったんだ。一兵卒で戦うよりも敵国の情報収集をする方が役に立つかもしれない。


「アリサちゃんたちは急に外国へ渡航することになるけど、大丈夫?」


アリサちゃんはガッツポーズをして、大丈夫であるとアピールした。


「もちろん、大丈夫ですよ。もともと卒業して冒険に出かけようとしていましたから。私たち四人とも身寄りもありませんし。王女様が仰ったようにフル=フランにいる方がむしろ自然かもしれません」


アリサちゃんは苦笑していたが、僕はそんなアリサちゃんに愛おしさを感じ、頭をくしゃくしゃに撫でてあげた。


「シュン・スローン。随分そのエルフが気に入っているようだが、お前たちはできておるのか?」


王女様がニタリと笑い、勘繰ってきた。僕はそんな間柄ではないです、と慌てて取り繕った。


「わたしは好きですよ。シュンさんのこと。まだ付き合いは短いから、お付き合いや結婚は考えてませんけどね」

「アリサ~! おにーさんはうちのものだから!」


アリサちゃんにシーナちゃんが食ってかかる。ユキちゃんとメイムちゃんも何か言いたげだ。


「僕たちはまだパーティーメンバーとしても付き合いが浅い。もっとレベルを上げて連携もとれるようにならないとね。とにかく、フル=フランに向かうのは決まった。みんな、帰ったら準備をしてくれ。密林商店はジャスタスさんに一任して大丈夫だろう」


王女様含むその場に居た五人がしっかりと頷いた。


話が終わった僕たちは、そのまま来賓の間で昼食を振舞われた。


王宮料理は今まで見たことのないような料理ばかりで僕まで夢心地の体験だった。


きっと王女様なりの餞別なんだろう。


敵国にスパイなんて言うほど楽じゃない。


捕まったら最期の命を賭けた任務だ。


それに、その僕たちの働きでアイ=レン国が有利に戦を進められるようになるんだから、僕たちの命以上に重要な任務だ。


本来ならSランクパーティーの役目だったはずのこの任務を僕たちが受けることになるなんて、僕は自分が誇らしかった。

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