キトラとの話し合い

「シュンさん、戻ってきたんだ。キトラさんがお待ちだよ?」


部屋に戻るなり、アリサちゃんが声をかけてきた。


「キトラさんが?ちょうど良かった、僕も話があったんだ」


キトラさんは部屋の中央にあるソファに座っていた。


その正面にはユキちゃんとメイムちゃんがいた。シーナちゃんはベッドの上であぐらをかいていた。


「あ、シュンさん、戻ってきたのですね。ちょうどメイムと一緒にキトラさんから外の様子について聞いていたのです」

「シュン殿、おかえり。ユキ殿とメイム殿に話を聞いてもらっていた。宿の中はまだ静かだが、外は兵士や傭兵が慌ただしく動いている。私達はしばらく外を出歩かない方がいいだろう。アイシャとはこの宿に来てもらって次の指令を仰ぐことにしたのだ」


キトラさんがソファに座りながら頭だけ僕の方を向き、そう伝えた。


僕はキトラさんの正面のソファのユキちゃんの隣に座って話を聞いた。


「そうですか、確かに1階、2階、3階と調べてみましたが、1階以外は人と出会うこともなく静かなものでした。ただ、先ほど1階に『黒の竜騎兵団』と名乗っていた兵士?のような者どもが大勢この宿に泊まっているみたいです」

「黒の竜騎兵団……。全身黒で統一された武具を身にまとい、竜を駆るフル=フランの中でも有名な精鋭たちだ。しかし、彼らはフル=フランの空戦力の要。ロシディアとの国境地帯を守っていると思ったが、なぜ首都に戻ってきているんだ?」

「それが、奴らはアイ=レンを攻めるためにフル=フランの空戦力を全てつぎ込むようです。陸戦力のみをロシディアとの国境に配置し、空戦力全てをアイ=レン攻めに向かわせ、短期決戦にてアイ=レンを攻め落とすつもりです」


キトラさんは僕の話を聞いて顎に手をやり思案顔になった。


「短期決戦に持ち込まれるのはまずいな……。空から攻撃されると間違いなく首都ロンドが戦場になる。私達がしなければならない事がだんだん見えてきたな。アイシャから正式に指令がくるとは思うが、おそらく指令は『奴らを飛ばすな』だろう。港町ルーの治安の悪さを放置していた事からもあそこを前線基地にしてロンド攻略といったところか」


『奴らを飛ばすな』か……。そうなると、僕たちは何をすればいい?港町ルーに空戦力を向かわせないようにするために出来る事と言えば。


「とにかく更なる情報が必要だ。まだ動く必要はないだろう。首都パルドンも慌ただしいとはいってもまだまだ準備に時間がかかりそうだ」


キトラさんはそれだけ告げると、僕たちの部屋から出て行った。


「おにーさん、うちらは何すればいいの?」


シーナちゃんたちも僕とキトラさんの話を黙って聞いていた。


僕たちは王女様からフル=フランの首都パルドンに行って内情を調べてくれとしか言われていない。


「そうだな。奴らが飛ぶ寸前に奇襲をしかけるとか、かな。空戦力を集めて港町ルーからロンドへ渡るつもりなのは明白だから。日時がわかれば僕たちとロンドからの海軍で挟み撃ちにできるかもしれない。シーナちゃんたちは港町ルーに火を放ってくれればいいかな。あとは僕とキトラさんで奇襲をしかける。とりあえず今思いつく案はこれぐらいだ」


「確かに、竜騎兵に飛ばれると厄介ですが、飛ぶ前なら飛竜と兵士に過ぎないですからね。さすがはシュンさんです」


ユキちゃんが感心していた。メイムちゃんもほぅと息を吐いて僕に熱い視線を送っていた。


今度キトラさんが来たら今の策を話してみよう。僕らに出来る事をして、アイ=レンを勝利に導かないと。

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