義勇兵志願
――王都ロンド メインストリート 市場
荷車をごとごとと押しながらメインストリートまでやってくると、何やら人だかりが出来ていた。
「皆さん、お集まりで。何かあったんですか?」
僕は人だかりの中に入って、様子を尋ねた。
「何でも、近々戦争が起こりそうなんだと。それで、王様が義勇兵を募集しているみたいだ。貴族連中もこぞって兵を集めてやがる。戦争なんて物騒なことしないでほしいんだけどねぇ。どうも南東にある大陸の国が侵攻してきそうなんだとよ」
「戦争……。それはまた物騒だな。南東の大陸の国というとフル=フラン国か。大昔よりここアイ=レン国と争っている国。空を跳ぶ竜騎士が主力の軍事大国」
「兄ちゃんよく知ってるね。兄ちゃんのいうとおり、その軍事大国が攻めてきそうなんだとよ。俺たち冒険者も傭兵として加わって一儲けさせてもらおうかと考えてたところだ。兄ちゃんも逃げるか戦うか決めておいた方がいいぞ」
親切なおじさんはよくみると体のあちこちに傷があった。
歴戦の冒険者のようだ。
戦争なんて、せっかく大金稼いでSランクパーティーを見返して、悠々自適の隠居生活と行きたかったのに、人生何が起きるかわからない。
軍事大国フル=フラン。フラン皇帝が治める帝国で、軍事力によって大陸の西端を瞬く間に制圧してしまった大国だ。
アイ=レン国は三つの島からなる島国だから今まで侵略されなかったが、ついに来たか、と言ったところだ。
僕は商品を仕入れて荷車に積み込み、素早く自宅へと引き返した。
――王都ロンド スローン・ストリート シュンの事務所
「シーナちゃんたちも帰ってきてるね。配達は少し待って。大事な話がある」
ちょうどシーナちゃんとユキちゃんも配達を終えて帰ってきていたところだったので、事務所に全員を呼んで先ほどの戦争の話をすることにした。
「近々戦争になりそうな雰囲気らしい。相手国は南東の大陸の軍事大国フル=フラン。それで、王様が義勇兵を募集しているらしい。僕は義勇兵に応募しようと思う。君たちも恐らく戦いが激しくなれば徴兵されてしまうと思う。だから、この際一緒に義勇兵に応募してみないか。女の子を戦争に向かわせるなんて本当は嫌だけど、肝心の国がなくなってしまったら元も子もない。僕が精一杯君たちのバックアップはするから、是非僕と一緒に戦ってほしい」
四人は『戦争』と聞いて、顔色が変わった。
冒険も命がけだけど、危険度が段違いだ。
軍事大国フル=フランは南東の大陸にある。
アイ=レン国で一番近い都市は、なんとこの王都ロンドなのだ。
となると、激戦になることは必至。
なんとしても上陸させないように迎え撃たなければならない。
幸い、このアイ=レン国の海軍は全世界最強との呼び声が高いため、海からは攻めてこれないだろう。
そうなると、フル=フランの主力、竜騎士で空から攻めてくるに違いない。
つまり、否が応でも、上陸戦になってしまうのだ。
「あたし、シュンさんと共に戦いたい! シュンさんはあたしを庇って大怪我したのに、全く責めないで優しくしてくれた。だから、シュンさんとどこまでも一緒に行きます!」
メイムちゃんが賛同してくれた。白狼から庇ったこと、まだ想ってくれているみたいだ。
「うちもおにーさんと一緒がいい! どうせ、おにーさんところしか行く当てがないし、アリサやメイム、ユキと一緒の方がいい!」
「私も異存ありません。メイム、シーナと同じ思いです」
シーナちゃんとユキちゃんが次に賛同してくれた。残るはパーティーリーダーのアリサちゃんだけだ。
「わたしもシュンさんと戦う! エルフの里のみんなに知らせに帰ろうかと思ったけど、やっぱりみんなと共に戦うよ!」
「よし! これで全員義勇兵応募で決定だな! 大丈夫。僕が絶対に君たち四人を守るよ!」
僕たちパーティーは改めて結束と絆を深めた。
全員義勇兵応募して、戦争に出る。
魔物とは違い、竜騎士は戦闘のプロだ。苦戦が予想される。
それでも、自分たちの国を守るにはこれしか方法がないんだ、と自分に言い聞かせた。
「それじゃ、仕事の続きをしよう。午後の郵便でも二十数件注文が入ってた。仕入れに向かって正解だったな。じゃあ、また四人ともお願いね」
「わかった! ピッキングしてくるね!」
アリサちゃんが元気よく返事をしてくれた。
シーナちゃんとユキちゃんに聞いた限りでは家に居ながらにして、市場と変わらない値段で売ってくれるなんて便利だ!と褒められたらしい。
これは大当たりだな。これからお客さんが増えてくれば1日に金貨何枚もの儲けになるぞ。
今はアリサちゃんたち四人に金貨200枚ほど借金している形になっているから、彼女たちのお給金分も考えると借金返済は1年以内には完済できる。
戦争が近付いているとはいえ、普段はクエストや商売をしてお金を稼がないと生きていけない。
戦争……。
Sランクパーティーの奴らも傭兵として参加するだろう。奴らに負けるわけにはいかない。敵はフル=フランでも負けたくない相手は味方の中にもいるのだ。
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