ユキとメイムの過去

――小国ヤパ オッサカ村(ユキ視点)


私達は、海のはるか向こう、ヤパという小さな島国で育ちました。

ヤパはアイ=レン国と同様に肥沃な地に豊かな海産物、それに統率力のある大皇が治める何不自由ない国でした。


メイムと出会ったのは、私が五歳の頃でした。ヤパでは人間族と鬼人族が共存していました。中には鬼人族を恐れていた者も居ましたが、オッサカ村ではそのような事はなかったのです。


鬼人族は、普段は人間族と瓜二つの姿ですが、感情が昂ると爪が伸び、牙が生えて角が伸びて、筋力量、魔力量が倍増するという特性を持っています。その状態を『鬼人化』と呼ばれていました。


ヤパは小さな国でしたが、鬼人たちの活躍により、侵略されなかったのです。アイ=レン国と同じ島国だった事もありましたが、上陸戦での鬼人族たちの活躍ぶりはまさに『鬼人』と呼ぶにふさわしいものでした。


私達が十歳になる頃まで、何事もなく平穏に暮らしていました。


しかし、今から八年前、ヤパの北西にある大国ナーズが国を挙げて侵略してきたのです。


人間族も鬼人族も必死に戦い、そして、勝利しましたが……。


私達の村は敵に上陸された時に何もかも蹂躙されてしまいました。


両親や友人たちも全員ナーズの血も涙もない行為で皆殺しにされてしまいました。


私とメイムは村の唯一の生き残りです。


運が良かったんです。メイムが鬼人化して穴をほり、そこに埋まって難を逃れました。


穴から出て来た時には、ヤパ軍が救出に来ていましたが、火の海の中、村の人達の無残な死体だらけでした。


その後、私達は精神を病んでしまって、その回復のために、ヤパと交流のあるアイ=レン国に留学することになったんです。


そこでアリサとシーナと出会って、意気投合して今に至るというわけです。


――港町ルー 宿屋


「そうだったんだ。ユキちゃんとメイムちゃん……、辛かったね」

「はい……。未だにあの光景が頭から離れないんです。だから、戦がまた起きてしまうなんて絶対に許せない。また、あたし達の大切な人たちが死んでしまう」

「メイムちゃん、落ち着いて。よしよし」


僕は感情が昂りつつあったメイムちゃんを抱き寄せ、頭を撫でてあげた。


「ユキもメイムも酷い過去だったのに、特別扱いしてる、アイ=レン国の人じゃない、って言っていじめられるんだよ。でも、この町の様子を見る限り、アイ=レン国での事は大したことなかったね。それよりも、戦争になって町がめちゃくちゃになるのを防ぎたい」


シーナちゃんも明確に戦争を防ぐ、あるいは勝利するための意識を芽生えさせたようだ。

「何をするのか知らないけど、わたしたちに出来ることならなんでもするよ!」


元気なアリサちゃんが急に挙手して叫んだ。


「今はまだ指示が届いてないから、とりあえずこの部屋に居るだけだね。直にキトラさんから指示が来ると思うから、今の間に休んでて。船旅で疲れてるだろうしね」


数時間の船旅。何事もなかったとはいえ、初めての船旅で疲労は溜まっているだろう。僕も何だか、眠くて仕方ない。


「数時間ぶりにしっかりとした地に足をつけたからね、船の中はゆらゆらして落ち着かなかったよ。幸い、船酔いにはならなかったけど。アリサちゃんたちは大丈夫だった?」

「わたしは大丈夫!シーナも大丈夫だったよ!ユキやメイムも大丈夫かな!」


全員船には強かったみたいだ。


僕は一気にホッとして、なんだか急激な眠気が襲ってきた。


さっきまでアリサちゃんたちが跳ねて遊んでたベッドに寝そべり、瞼を閉じた。

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