教会でやり返し

――王都ロンド 教会


 僕たちが教会に着くと、入り口前でSランクパーティーのメンバーが出てくるところに出くわした。


「シュン……!」


イドリオが僕に向けて憎悪の目で睨む。


「そんな目を向けないで! あなた達を救ったんですよ、シュンさんは!」


 普段大人しいメイムちゃんがイドリオに言い放った。


予想外だったのだろう、いつも強気なイドリオがメイムちゃんの大声にひるんだ。


「イドリオ殿、今回はわし達の負けを認めましょう。大丈夫、わしには金がある。こやつらのような貧乏人とは違うということを見せつけてやりましょうぞ」


イドリオの後ろからでっぷり太った大商人の男がそう言った。


「シュン、かつてはパーティー仲間だったあなたが成長していて、皆驚いているんですよ」

「ステフィア! 要らないことを言うんじゃない!」


ステフィアがほんの少し僕の事を気遣うような事をいった途端、アーサドラがそれを咎める。


「いやはや、あの役立たずのお荷物が、まさかケルベロスを召喚できるようになっているなんて、思いもしなかった。だが、それだけの話だ。まだ、私たちの方がはるかに上だ。今回のクエストは、ネクロマンサーにたどり着くまでも魔物がたくさんいて消耗していたから苦戦していただけだ!」


エグバートが言い訳のような事を言い出した。


僕はこんな言い合いよりも、傷口が痛むため、早く切り上げたかった。


メイムちゃんも僕の顔色を見て、そう判断したようだ。


「あなたたちの言い分はわかりましたから、そこをどいてください」


僕たちはSランクパーティーの横を通り抜けて教会に入った。



「重傷ですね、わかりました。すぐに司祭様を呼んでください!」


 僕の傷を癒すため、僕たちはロンドの教会にやってきた。

 

 この世界にも病院はあるが、傷の治療は基本的に教会の僧侶が行う。


重傷や重体患者は、司祭の治癒魔法によって回復させるのだ。


 お金は取られるが、ほぼ体力は傷は魔法で回復するが、病気は治らない。


だから、病院、医者、看護師などの施設や職業も需要がある。


 この世界には他にも決まり事がある。


例えば、魔法の難易度だ。生活や冒険において、便利で重要な魔法ほど習得に時間がかかる。


 回復魔法なら、初期のちょっとした傷や体力の回復程度なら僧侶クラスの低レベルで習得が可能だが、病気や骨折、重大な怪我の場合は、もっと高ランクの回復魔法が必要で、僧侶クラスの高レベルでないと治せない。


 高レベルになるには、努力だけではなく、才能も必要だ。


つまり、重体患者を治癒できる魔法を行使できるのは、選ばれた者だけなのだ。


教会の司祭クラスは回復魔法のエキスパートというわけだ。


 ちなみに、召喚士クラスは本当に希少な存在。


おそらく王都ロンドには僕以外居ないと思われる。


王都ロンドのはるか北にある、魔術都市エディンなら、居るかもしれない。そのぐらい希少なクラスなのだ。


 案外、召喚士に転職した『シュン』を脅威に思ったからこそ、Sランクパーティーの奴らは『シュン』を追放したのかもしれないな。


 なお、もし、死んでしまった場合どうなるか。


それは、教会ではなく、寺院の方にお世話になる。


寺院では死体回収を行っていて、寺院に居る特別な修練を積んだ蘇生術師が蘇生魔法で生き返らせるのだ。


ただし、100%生き返る保証はなく、失敗すると肉体がなくなってしまい、二度と蘇生できなくなる。


本当の意味での『死』がやってくるのだ。


「これで包帯を巻いて、と。しばらく安静にしていてください」


 教会の司祭様は、儚げな女性だ。睫毛が長く、短髪の大人の魅力を持ち合わせていた。


 その司祭様に傷口を縫い、包帯を巻いてもらって、回復魔法で治癒してもらっておしまい。これで骨が見えるぐらい肉が裂けていた僕の左腕もすぐに完治するだろう。


回復魔法って便利。


「シュンさん。本当にありがとうございます」


 メイムちゃんが改めて礼を言う。


僕は、大丈夫だから。と言って、涙をためているメイムちゃんを慰める。


元凶の白狼は、教会の外でシーナちゃんたちが様子を見ている。


現在は大人しくいうことを聞いているみたいだ。


洞窟からの帰り、グリフォンに乗せようとした時も、犬笛さえ吹けば大人しく言う事を聞くようだ。


「治療も済んだし、そろそろお嬢様にワンちゃんを返しにいこうか」

「はい!」


 メイムちゃんがしっかりと返事したことを確認してから、司祭様に礼と治療代を払って教会を出た。

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