冒険者ギルド

――冒険者ギルド


「パーティーを探しにきました。以前冒険者登録をしていた、シュンという者です」


 冒険者ギルドの受付のかわいいお姉さんに声をかけ、以前登録していたことを伝えた。


「はい、スローン・ストリートにお住まいのシュンさんね。確かに冒険者登録がありますね。21歳で召喚士レベル1に、商人レベル10、鑑定士レベル10、狩人レベル10ですか。これなら、初心者パーティーぐらいしか今じゃ加入できませんね。はい、これリスト。今日登録してパーティーメンバーを募集しているパーティー名簿です。この中から選んで、良いとこがあれば声かけてください」


 冒険者ギルドの受付のお姉さんは分厚いリストを僕に渡した。


 今日登録したばかりということは、本当に冒険者になりたての者ばかりだろう。


 8歳の頃に能力石板を渡され自分の進む道を決め、冒険者ギルドに登録に来る頃には大体レベル10ぐらいにはなっているものなので、確かに以前のままのレベルなら初心者パーティーしか入れないだろう。


 冒険者ギルドのリスト更新するためには、自分で冒険者ギルドに能力石板を渡してレベル更新の手続きをしないとずっとそのままだ。


 しかし、大抵の冒険者はレベルが上がればすぐに更新する。そうじゃないと、このようにいつまでも弱いままと認識されてしまう。


 もちろん、この世界は冒険者以外の生きる道もあるため、レベルが上がっていなくともおかしくはない。


 クラス商人なら、お金を稼ぐことで経験が溜まりレベルが上がっていくから、冒険者ではなく、商人として生きていくこともできる。


 実のところ、クラス召喚士は実は不人気職なのだ。レベル1で召喚できる狼は、クラス剣士レベル1などの戦闘職より弱い。


 わざわざ召喚士を仲間に入れるより、剣士を仲間に入れる方がレベルも早く上がり、装備を揃えることで召喚モンスターより遥かに強くなっていき、パーティーの戦力アップの早道だ。


 召喚士が本領を発揮するのはレベル30になって、『ドラゴン』を召喚できるようになってから、なのだ。


 でも、そこまで悠長なことをしてられるほど、この世界は甘くない。この異世界は魔物が跋扈する世界で、命の保障がされていない世界だからだ。


 このシュンという男は、家族からの仕送りもあって、比較的生活に余裕があり、様々なクラスのスキルがあったからこそ召喚士、などに転職したのだろう。


 普通は、戦闘職なら冒険に生活がかかっているため、レベル30になったら活躍するから、なんて言い訳通用しないのだ。


「どれもこれも、レベル1の初心者パーティーばかりだな。これから仲間を集めてクエストをこなしていく、みたいな感じかな」


 フェアリーのリエが僕の肩に乗って僕の耳元で囁く。


「ほら、シュン。あそこ見て! シュンを追い出したSランクパーティーの奴らがいるよ!」


 僕は分厚いリストに目を通しながら、リスト越しに冒険者ギルドの受付の方を見た。

 

 すると、ぴかぴかの強そうな鎧や高そうな法衣などで着飾ったSランクパーティーの四人とあと一人見覚えのない者が居た。


 ギルドの受付のお姉さんは僕にはぶっきらぼうだったのに、Sランクパーティーの二刀流剣士イドリオに対しては満面の笑みで対応している。


 この世の中の縮図をまざまざと見せつけられているが、気にはしない。


 今の僕には実力がある。


 スペシャルクラスではないものの、ベテラン並みのクラスが4つにSランク級のクラスが1つと充分Sランクパーティーにも見劣りしないだけの実力がある。


 僕が再び分厚いリストとにらめっこしていると、急に声をかけられた。


「おまえ、もしかして、シュンか!? しばらく見ないと思ったら、ひょっとして誰もパーティーに入れてもらえず、引きこもってたのか? どうだ、ようやくギルドに顔を出せた感想は。俺たちはおまえを追放してからも活躍して、この前なんか王様に表彰されたんだぜ。ほれ、これがその時もらった勲章だ。ほんと、おまえを追放して良かったよ」


 二刀流剣士イドリオは胸を張って僕に勲章を見せてきた。イドリオの眼はものすごく僕を見下した眼をしていた。


「そ、そうなんですか。さすがイドリオだね……。勲章もす、すごいね。それよりそちらの人が気になるんだけど……?」


 僕は思いっきり卑屈な感じで喋った。まだ、僕の復讐は開始していない。もう少しの辛抱だ。


「おまえなんかに褒められると逆に気分悪いわ。で、こっちの旦那はな、お前の代わりに入った商人のスペシャルクラス『大商人』レベル40という大金持ちだよ。この旦那のおかげで俺たちは金に困ることがなくなったんだよ。ほんと、お前はお荷物の役立たずだったな。死ねば?」


 スペシャルクラス『大商人』しかもレベル40か。


 確かにそれはすごい。


 すごいんだけど、それは単なる商売人ではないのか、という疑問が湧くが、僕はもうイドリオにかまうのはやめにした。


 卑屈な愛想笑いをしながら、そうなんだ、すごいね、ははは。とだけ言っておいて逃げた。


 僕が冒険者ギルドから出ていく時、後ろで笑い声が聴こえたが、僕はそれを無視した。



 冒険者ギルドから出た僕は、嫌な記憶を一瞬で心の奥底に沈み込ませ、仲間募集の初心者パーティーのリーダーのもとへと向かうことにした。

 

 そのパーティーのリーダーのクラスは、ニンジャレベル1。パーティーメンバーは、サムライレベル1、神女レベル1、聖女レベル1だ。


 聖女は僧侶のユニーククラスで、生まれた時からそのクラスに就いているというクラスだ。


 レベルを上げれば僧侶のスペシャルクラス『大僧正』よりも遥に能力が高くなるという非常に稀なクラスだ。


 僕はそのレアクラスの人物に大変興味が湧いたため、このパーティーに会いに行った。

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