首都パルドン

「休憩所で必要なものは揃えていたが、途中でまた補給はしないといけないだろう。地図を見て、立ち寄れそうな村か町があるか確認しといてくれ」


キトラさんが馬車の中に居る僕たちに呼びかけてきた。


「現在地から首都パルドンまでは、この馬車なら大体8時間ぐらいよ。休憩なしでは厳しいわね!シュン!また長いこと閉じ込めていたわね、窮屈でしょ!」


僕の道具袋の中からフェアリーのリエが飛び出て来た。随分大人しくしてたと思ったら急にこれだ。


「リエ、寝てたのか?」

「そうよ!ぐっすり眠ってたのよ!で、今起きたの!」

「おにーさん、リエちゃんに触ってもいい?」


シーナちゃんがリエに手を伸ばすと、ふふんとリエがあざ笑い僕の頭の上に座った。


「私に触れるのはシュンだけよ!」

「ええ、なんで~!おにーさんだけずるい!」

「あ、あたしも触ってみたいなぁ……」


シーナちゃんだけでなく、メイムちゃんも触りたいと言い出した。


「リエ、ちょっとだけなら触らせてあげれば?」

「だ~め。私はシュンのペットなんだから、誰にも触らせてないの!はい!この話は終わり!」

「ちぇ~」

「残念です……」


僕はキトラさんに言われたとおり、町か村、休憩所を確認するため、地図を広げた。


「僕たちは今このあたりを走っていて、首都パルドンまでは街道を通っていくとすると、休憩所がいくらかあるな。大きな街だと兵士に怪しまれる可能性があるから、出来るだけ大きい街を避けて村か休憩所だけを通って行く」

「あの、シュンさん。フル=フランの土地には魔物は居ないんでしょうか? 街道だからかもしれないですが、まだ一度も見かけません」


ユキちゃんの言う通り、まだ一度も魔物を見ていない。アイ=レン国も街道沿いはほとんど居ないのだけれど、こちらの国もそうなんだろうか。


「フル=フランもたびたび討伐隊が出されているから街道沿いは安全なはずだ。だから、わざわざ街道沿いを走っている。兵士に見つかる可能性があったとしても、街道以外の道で魔物と遭遇するよりは安全だからだ」


御者台のキトラさんが答えた。なら、街道沿いの村と休憩所で補給すれば充分みたいだな。


――軍事大国フル=フラン 首都パルドン


何度か休憩所に寄った後、僕たちは無事首都パルドンまでたどり着いた。


道中、商人たちが荒野で兵士1000人が惨殺されていた話をしていたが、犯人は未知の魔物だという事になっていた。アイ=レン国でもレベル40の召喚士はほぼ僕一人で、フル=フランでは存在しないからわからないのも無理はない。


これで、僕たちの正体がバレる事はないだろう。ただし、召喚魔法を外で大っぴらに使うことはできないな。


僕たちの馬車は首都パルドンの門を通り抜けて、馬車の待機所に向かう途中だ。


「馬車を乗合所に預けたら宿を探す。しばらくは私の後に大人しくついてきてくれ。私もこのパルドンについてはそう詳しくない。まずは町を観察することからだな」


首都パルドンの街並みは軍事大国らしく、物々しい兵隊が町を闊歩していた。


武装した兵隊があちらこちらに居るのは町の治安を守っているのではなく、次々と軍の兵隊たちが首都に戻ってきては再編され、再び戦争へと向かうからだそうだ。


この町は首都であり、戦の全てを司る軍の中枢、大本営とでも言うべき様相を呈していた。


文明レベルはアイ=レン国より発達しているようだった。


町の中を走るのは馬車がほとんどだが、一部蒸気自動車も走っていた。


それに、アイ=レン国と決定的な違いが一つある。


それは空を埋め尽くさんとする飛竜と竜騎士の存在だ。


大量の飛竜が空を舞い、昼だというのに薄暗くなっている。


飛竜に跨っているのはフル=フランの主力の竜騎士だ。


飛竜を操る竜騎士が飛竜より弱いということはなく、当然飛竜以上の力を持っている。


この空を埋め尽くす飛竜にひとりひとり竜騎士が乗っている、これは他国からすれば脅威だろう。


――首都パルドン 高級宿


キトラさんがとった宿はパルドンでも有数の高級宿だった。


港町ルーの時のように事件に巻き込まれてはかなわないということで、奮発して高級宿をとったそうだ。


しかし、なるべく経費を抑えることと利便性のため、僕とアリサちゃんたちはまたしも同じ部屋だった。


今回は宿の部屋の中がかなり広く間仕切りもあるため、それほど問題ではないが、それでも女の子ばかりの中に僕だけ男一人というのも抵抗がある。


キトラさんは既にパルドンに潜入しているというアイシャという諜報員とのやり取りは僕たちにも聞かれたくないから、また一人で部屋をとっている。


確かにリスクの分散を考えれば僕たちパーティーとキトラさんは別々の部屋の方がいいのだろう。

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