高級宿の朝

――首都パルドン 高級宿 2階 シュンたちの部屋 朝


ぐっすりと眠れて朝を迎えた。


敵国で安眠だなんてスパイにあるまじき行為かもしれないけど、僕たちの身分としては、まだ何もしていないからそうやましい事もない。


顔も割れていないし何か起きるはずもなく、この宿に居る限りは安心できそうだった。


僕が部屋のバルコニーに出てパルドンの街並みを眺めていたら、アリサちゃんが起きてきた。


「シュンさん、早いんだね。バルコニーで何がみえるの?」


アリサちゃんは近頃口調が敬語じゃなくなった。何か心境の変化があったのかもしれない。


しばらく二人でぼぅーっと外を眺めていたら、3人が起きてきた。


「シュンさんに、アリサ。そんなところで何してるのですか」


最初に声をかけてきたのはユキちゃんだ。


「ちょっと町を眺めてた。朝早くから馬車がたくさん走っているよ。戦争、の準備かはまだわからないけれど、何かがあることは間違いないね」


「今の私達には……。何もできませんね」


そう言って僕の隣で一緒に慌ただしく流れる景色を見るユキちゃん。アリサちゃんは、おはよう、と言ったきり黙り込んでいる。


綺麗な横顔だな、と僕は思った。


「おにーさん、そろそろ朝ごはんの時間だよ!」


シーナちゃんが僕にまとわりついてきた。


物思いに耽っていたアリサちゃんもさすがにこれは看過できないのか、僕からシーナちゃんを引きはがそうとした。


「シーナ!シュンさんから離れて!」

「はいはい、二人とも喧嘩しないで。ほら、朝食にいくよ。メイムちゃんとユキちゃんも一緒に行こう?」


早朝の町の喧噪を眺めていたユキちゃんとメイムちゃんにも声をかけて、僕たちは朝食のために一階のカフェに向かった。


――首都パルドン 高級宿 1階 カフェ

「キトラさんに聞いた話では、宿泊客はここのカフェ代無料らしいよ」

「そうなんだ!やった!」

「やったー!たくさん食べよー!」


アリサちゃんとシーナちゃんが無料飯と聞いてはしゃぎだした。


僕のこのパーティーの4人とも貧乏学生だったもんね……。


無料ときいては喜ばずにはいられないさ。もちろん、僕もね!


僕たちは窓際の日当たりの良い席に座り、メイドさんに声をかけた。


「モーニングを4つお願いできるかな?」

「モーニング4つですね。畏まりました」


メイドさんは丁寧な仕草で僕のオーダーをメモにとり、キッチンへと歩いて行った。


「高級だからといって驕らず、丁寧で優雅なカフェだね。なんというか、この席に座っているだけで気持ちが良い。メイムちゃんたちはどう思う?」

「あたしもシュンさん同様、なんだかほんわか気分になります」

「私もそうですね。日当たりも良いし、気持ちの良い接客に店の雰囲気。ほのかに香るコーヒーの良い香り。トーストの甘い匂いもしますし、ここがフル=フラン帝国内だなんて忘れそうです」


ユキちゃんの言う通り、ここはまぎれもなく敵国内だけれど、この宿の中は別世界のようだ。


これから僕たちのアイ=レン国と戦争をおっぱじめようという国なのにな……。

「まあ、まだ何事も言われてないし、しばらくは堪能しよう」


ユキちゃんにそう言うと同時に、メイドさんがモーニングを運んできた。


ふわふわのトーストと香しい香りのコーヒー、さらに薄く切られた肉にスープ、ゆで卵、フルーツがテーブルに置かれた。


「うわー、おいしそう!」


匂いだけでおいしい。量もたっぷりあるし、見る限りでは大満足だ。


「おいしい!」


すでにアリサちゃんがトーストに肉を乗せて食べていた。


僕も同じようにトーストに肉を乗せて口に運んだ。


口の中で肉の素材の味と塩気がうまく混じって、とてもおいしい。


そこにふわふわで甘みのあるトーストが混じって更に上質な味に仕上がっている。


僕たち4人は、夢中になってモーニングを食べはじめた。

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