フライト


「ということなんだが……光は嫌だよな。……光が行かないでって言うなら俺は行くつもりはない」


莉子から誕生日プレゼントにグアム旅行を貰った事を光に伝える。


「そうなんだ……莉子ちゃんが……」


光は少し考える素振りを見せた後、俺をしかと見据えた。


「……いいよ」


「……本当にいいのか?」


正直予想外だ。自分をいじめた女子と自分が好きな男子が一緒に海外旅行だなんて断られても文句なんら不思議ではないと思っていた。


「……本当は行って欲しくないけど……でも、お兄ちゃん前から海外行きたいって行ってたから。それに、海外旅行は莉子ちゃんからのお兄ちゃんへの誕生日プレゼントだから。私が駄々こねたらせっかくの莉子ちゃんの思いが台無しになっちゃう」


……ほんまにええ子や。


少し病んでる所はあるけど、自分をいじめた女子の事も思いやれるなんて……やっぱり光は優しくて思いやりのある子だな、と再確認した。


「……ただし!」


「ただし?」


「あんまりハメを外しすぎないように!言ってる意味わかるよね?だって同じ部屋に泊まるんでしょ?」


……なるほど、が起きないか光は心配になってる訳だ。だがその点で光が憂う必要は無い。


「その点は大丈夫だ。なんでも莉子のお姉ちゃんが向こうに住んでるらしいから、そこに泊めてもらう予定なんだ」


あのプレゼントと貰った後、すぐさま莉子に電話を掛けて概要を教えてもらった。


元々は、現在日本に帰省している姉の住んでいるグアムに2人で向かう予定で、一枚だけ旅行券を両親に貰っていたらしい。その後に莉子が好きな人……まあ、つまり俺と一緒に行きたい、とお年玉などで貯めたお金を全額出して姉と両親に頼み込んだそうだ。

当の莉子のお姉ちゃんは快く返事をしたので、渋々ながらも両親も了承してくれたらしい。

ちなみに、アメリカは未成年の渡航は禁止されているが、26歳だという莉子のお姉ちゃんの同伴ならば問題は無い。


「余計危ないじゃん!そのお姉ちゃんとやらがお兄ちゃんに色目使ってきたらどうするの!」


「いや、流石に自分の妹の思い人に色目使うなんて事は無いだろ。まあ、莉子のお姉ちゃんの事はよく知らないからなんとも言えないが」


……流石にな。


「むぅぅぅぅぅぅ!」


俺の言い分に納得がいってしまったのか、光は唸り声を上げている。


でも、この調子ならなんとかお許しはもらえそうだ。


「……わかった。私、お兄ちゃんのこと信じる。……でもその代わりに条件がある」


「……条件?」


「旅行に行くまで私をいーっぱい甘やかすこと!」


とびきりの笑顔でそう言われたら、頷くしかないってもんだ。


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「佐田健人です!今回はよろしくお願いします!」


空港にて、眼前には莉子と彼女によく似た美女がもう1人。言わずもがな、莉子のお姉ちゃんである。


「赤村紗弥香ですぅ。よろしくね〜」


顔こそ似ているが、2人の印象は真反対。小悪魔な莉子と違って、紗弥香さんはおっとりしていてとても優しそうだ。

それに、莉子がスレンダーなら紗弥香さんはグラマラス。豊満な体から溢れる色気が凄い。


「先輩!グアム旅行ですよ!グアム旅行!」


「そうだな!俺も少しワクワクしてきた!」


「先輩、なんかいつもよりテンション高いですね。いつもはどっちかというとクール系なのに」


「いや、初めての海外旅行だからな!テンション上がらない方がおかしいってもんだ!」


「ふふ……なんだか今日の先輩、とっても可愛いです!」


そう言ってニマっと笑う莉子の方が可愛いよ、という言葉は飲み込んでおいた。


「2人ともイチャイチャしてるところ悪いんだけどぉ、なんだかんだで時間も押してるしぃ、もう行こっか?」


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「……先輩、急に口数が少なくなったけど、大丈夫ですか?」


「あ、あぁ……大丈夫だ」


3人席の真ん中に座る俺から見て左、機内側に座る莉子が声を掛けてくれた。


が、言える訳がなかろう。初めての飛行機で少し怖い、だなんて。


なんとか動揺を押し込もうとするも、何かの拍子で墜落してしまうのではないか、なんて事を考えてしまう。


「……怖いのぉ?」


俺から見て右、つまり窓側に座る紗弥香さんが声を掛けてきた。なんだか少し煽っているように聞こえてイラッとしてしまう。


俺が黙っているのが肯定の意だと思ったのか、紗弥香さんはふんふんと頭を縦に上下した。


「じゃあ、お姉ちゃんがおてて握っててあげるからね?大丈夫だよぉ、よしよし」


突然、紗弥香さんが俺の手を握り、反対の手で頭を撫でてきた。


イラッとしてしまった自分を助走をつけて殴りたい。……なんだこのバブみは。……母性が凄い。


いつの間にか、俺は羞恥も忘れて彼女に撫でられる頭の感触を味わっていた。いつもは撫でる側だから、こんなにも気持ちいいものだとは知らなかった。


すると、隣から不満気に文句を言う莉子の声が聞こえた。


「お、お姉ちゃん!先輩とイチャイチャしないでよ!私が相手するから!」


「あらあら、ごめんね莉子ぉ」


そう言って紗弥香さんは俺の頭から手を離し、代わりに莉子が代わって俺の頭を撫でた。


そこにバブみは無かった。



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あとがき


莉子のお姉ちゃんが出ましたけど、ヒロインにはしないつもりです。バブみ枠は欲しいけど、そこは栄美子先輩に頑張ってもらいましょう。



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