莉子(いじめっ子)と光(いじめられっ子)


「お、お兄ちゃん……それ、どうするの?」


光はそう言って俺の愚息を指差す。


「いや、まあ、ほっとけば元に戻る」


というのは勿論嘘である。眼前には裸の光。正直とても興奮している。


……確実に1%の人間にされつつあるな。否応なしに自覚させられた。


ピロン!


不意に、スマホの通知が鳴った。


……!やべ、莉子の事を聞こうとして光の部屋にきたんだった。


「光、少し聞いて欲しい事がある。………勿論、服を着た後にな」


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俺は莉子についての全てを光に話した。


光が学校に行かなくなった後の莉子への俺の対応。彼女の自殺未遂。彼女がいじめを後悔していること。………そして、彼女が今日光と会いたがっていること。


「……光が嫌だって言うなら俺は莉子を家に呼んだりはしない。もう一生会いたくないって言うならそれも仕方ない。けど、俺は一度チャンスを与えてやっても良いんじゃないかなと思ってる」


黙り込んでしまった光。今彼女は迷っているのだろうか。


「じっくり考えてくれ。俺は光の選択を尊重する」


何分たっただろうか。5分?10分?永遠にも思えたその静寂が、遂に光によって破られた。


「……莉子ちゃんと……お話しする」


俺自身、光は拒否するだろうな、と思っていたので素直に驚いた。


「わかった」


メッセージアプリで莉子に光が承諾した旨を伝える。即座に既読が付き、今から向かうと返信が来た。


スマホから視線を外し、チラリと光を見る。


心なしか、彼女の顔は強張っているようにも見えた。


「……光、無理することはないんだぞ」


「大丈夫。久しぶりに会うから少し緊張しちゃってるだけ……えへへ」


莉子が来たのはそれから30分後。俺達の家と莉子の家は確か遠かった気がするので、俺が連絡した直後に家を出たのだろう。


「………お邪魔します」


莉子をリビングへ案内する。光に拒絶反応が出ないか、また心に傷を負ったりしないか、不安は後を絶たないが、ここまで来たら腹を括るしかないだろう。光も、俺も。


「久しぶり……だね、莉子ちゃん」


「うん……久しぶり、光ちゃん」


「「………」」


まあ、こういう雰囲気になるよな。

むしろここで会話が弾んだら恐ろしいまである。


「……お兄ちゃんは他の部屋で待っててくれない?」


……え?


「大丈夫……なのか?」


俺はいた方が良いとばかり考えていたから完全に面食らってしまった。


「……うん。少し2人で話したくて」


こう言われてしまっては出ていく他ないだろう。正直2人きりにするのは不安だし、2人がどんな会話をするか気になっていたので少し残念だけども。


「わかった。何かあったら呼んでくれ。……莉子、ちゃんと今の気持ちを言葉にするんだぞ」


「……わかりました」


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30分ぐらい経っただろうか。不意に俺の部屋のドアがノックされた。


「先輩、入って良いですか?」


莉子か。


「いいぞ」


「失礼します……意外と部屋は片付いているんですね」


「意外は余計だわ……てかなんで俺の部屋の場所わかった?」


まだ一度も莉子はうちに来たことがないので、知る由もないはず。


「簡単な話ですよ、光ちゃんに教えてもらったんです。彼女は用を足しているのでその代わりに私が先輩を呼びに来たって訳です」


なるほどな。まあよくよく考えたら光に教えてもらう以外無いよな。


「……で?どうだったんだ?」


俺がそう聞くと、彼女は顔を俯かせた。


「ちゃんと謝ったけど……まだ許す事は出来ないって……はっきり言われちゃいました」


「……まあ、だよな。正直予想できていた事だ」


「……はい。自分が光ちゃんに深い傷を負わせてしまった事を再確認しました」


日頃からテンションの高い莉子がこうも落ち込んでいる事から、彼女が本気で反省している事がわかった。


「……よく、頑張ったな」


気づけば俺は彼女の頭を撫でていた。


「そ、そんな……頑張っただなんて、元々私が悪いんです……」


「それでも、だ。自分の非を認めて素直に謝れるのは立派だし、莉子が逃げずに光に謝罪してくれたのは個人的に嬉しいんだ」


俺は思いの丈を素直にぶつけると、莉子は泣き出してしまった。


「……わ、私、本当は、今日、凄く不安で、でも、自分が悪いから、誰にも相談出来なくて……」


「そうだよな。本当に良く頑張ったよ。よしよし」


莉子は元々悪い子じゃ無かった。これは俺が自信を持って言える。だからこそ、一時の過ちで光をいじめてしまった事を彼女も悔いて、後悔して、苦しんでいたんだと思う。


「お兄ちゃん、莉子ちゃんにデレデレしないで」


いつの間にか部屋に来ていた光が俺をキッと睨んでいた。光はそのまま莉子へ視線をスライドさせ、目を丸くした。


まさか莉子が泣いているとは思わなかったのだろう。光は動揺からか莉子から視線を外し、対する莉子もいたたまれない気持ちになったのか光から目を逸らした。


俺達3人になんとも言えない空気が立ち込める。


「莉子ちゃんの事はまだ許せないけど、気持ちは受け取ったから」


ポツリと光はそう漏らした後、そそくさと部屋を出ていった。


「莉子、良かったな」


「はい……はい!」


……一歩前進って所だな。


俺は2人の話し合いが上手く行った事への安堵から、大きく息を吐いた。


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