病んでる2人に気持ちを伝えよう
莉子が帰った後、俺と光は2人で晩御飯を食べていた。……のだが。
……光、機嫌悪いな。
光は機嫌が悪くなるとすぐに無口になる。今も俺がどんな話題を振っても素っ気ないので、確実に機嫌が悪い。これは長年お兄ちゃんをやってきたが故の確信である。
「……光、機嫌、直してくれないか?」
「……………何が悪かったのかわかってるの?」
怖えよ。めっちゃ怖えよ。
「莉子の頭を撫でたことか?」
「………」
だよな。それから明らかに不機嫌になったもんな。
「マジで悪かったよ」
「………お兄ちゃんはさ、すぐにそういうことしちゃうよね。小さい頃から麻紀ちゃんにも、今回の莉子ちゃんにも。どうせ他の女子にもやってるんでしょ?そうやって女心を弄んで愉悦に浸ってるんでしょ?」
「違う、断じて違うんだ。ほんとに、そんな事は一切無い」
全力で否定するも、光はジト目でこちらを見据えている。……駄目だ、これ欠片も信用されてないな。
「最近は麻紀ちゃんにも、もうそういう事してないだろうし、てっきり私の特権だと思ってたのに。凄く嬉しかったのに」
「……すまん、した。ガッツリ教室で麻紀になでなでした」
今まで、柔らかかった光の表情が、急に強張ったのが分かった。
「お兄ちゃんはさ、私に嫉妬して欲しくてそういう事してるの?だったら企みは大成功だよ。嫉妬で気が狂いそう」
「……悪かったよ。そんなつもりは無かったが、光が辛い思いしてたんなら、俺が悪い」
……ほんと、俺は出来た兄じゃないな。光の悲痛に歪んだ表情を見ていると、そう思わざる得なかった。
「……ごめんね。面倒くさいよね」
「……え?」
突然訳の分からない事を言い出した光に俺は盛大に困惑してしまった。
「ごめんね。重い女で。実の妹から嫉妬されても困るよね。でも、嫌いにならないで欲しいの。私、お兄ちゃんの事好きすぎるから。お兄ちゃんとしての好きと、1人の男性としての好き。どっちも満タンだから。私の中はお兄ちゃんへの好きでいっぱいなの。だから……嫉妬しちゃうの」
やっぱり、光は精神がとても不安定な状態なんだな、と再確認した。
莉子が来る前にはヒステリックを起こし、莉子が帰った後は怒ったと思えば謝ってくる。精神が安定しているとは言い難い。
何度も思っているが、光……恐らく麻紀もなのだが、俺に「捨てられる」「嫌われる」事に異常ともいえる恐怖を感じている。何度も俺が「捨てない」「嫌わない」と言っても彼女達はこの恐怖から解放される事はなかった。
恐らく、麻紀が急に包丁で佐里姉ちゃんを襲おうとしたのも然り、光がヒステリックになるのも然り、彼女達が不安定になるのはこの恐怖からだ。
これは全て俺の憶測だが、案外的外れでも無いはずだ。
ならば、解決策は一つしかない。
しつこいぐらいに何度も何度も、彼女達が安心出来るまで、俺の気持ちを伝えるしかない。
「光、好きだ」
「……ふぇ!?」
途端に顔を真っ赤にしてあたふたする光。
「恋愛感情の方は……悪い、まだ分からない。でも、少なくとも妹としての光は満タンどころじゃない、溢れるぐらいに好きだ。こんな妹を持てて俺は本当に幸せだよ」
「突然なに言い出すのぉ……でも………嬉しい」
照れ隠しをするように体育座りで縮こまって光ははにかんだ。
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光が風呂に入ったのを確認し、電話を掛ける。
というのも、変に誤解を招くのを避ける為である。
女子と電話で話してたなんて光が気が付いたらどうなるかわからんからな。
「どうしたの?」
「麻紀、今いいか?」
「大丈夫だよ」
「いや、ちょっと伝えたい事があってな」
「……告白?」
確かにこの言い方だと誤解されても仕方ない。
「違うな」
「なーんだ。まあいいや、言ってみてよ」
やはり幼馴染だからか、いやに電話のテンポが早いな。
「いや、さ……前に麻紀、俺がいないと生きていけないって言ってくれたよな」
「う、うん……ちょっと恥ずかしいけど」
「俺もさ、同じようなもんだよ。まあ、生きていけないと言うと語弊があるけど、将来の事を考えると、やっぱり麻紀と関係が切れるとは到底思えないし、思いたくないんだ」
「……うん」
「つまりさ、何が言いたいかと言うと……俺も麻紀の事本当に大切に思ってる」
「や、止めてよ、いきなり……凄い照れる………」
「ごめんな。急に伝えたくなって、な」
「ありがとう……私も、伝えたい事がある」
「おう、言ってみな」
電話越しに麻紀が深呼吸する音が聞こえ──
「大大だーい好き!」
そう聞こえた直後、電話が切れた。
「……」
………くそ……俺の方こそ照れるわ。
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あとがき
やっぱりヒロインの中では酷い目にあった光が一番精神的に不安定ですよね。麻紀も相当だけども。
物語もそろそろ終盤に入って行きましたね。
マジでどうなることやら。
てか女の子の嫉妬って本当好きですわ。莉子ぐらいになっちゃ駄目だけど。
新作投稿したのでよろしければ見てください!
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