島崎麻里亜の心の内(副会長から見て)
あぁ、すごい落ち込んでる……
「健人に……嫌われた……健人に……嫌われた……健人に……嫌われた……」
「でも…私は麻里亜ちゃんが嫌われても、仕方ないとは思ってたよ」
正直に言うとね。
「何よ!悠里は私が悪いって言うの!」
涙を目尻に溜めながら激昂する麻里亜。
「健人が悪いんだ!私が必死にアプローチしてたのに!あんな女と付き合って!だから!だからぁ……」
「冷たく当たっちゃったんだよね?」
「……うん」
三ヶ月前のあの日、生徒会の仕事が粗方片付け終わり、雑談をしていた時の事。
きっと健人君にとっては何気ない話題の一つ。
でも麻里亜ちゃんにとってはそうではなかった。
「そうそう、俺、彼女出来たんすよ」
……確かに麻里亜ちゃんは健人君に告白はしていない。
だけど必死にアプローチしていた彼女にとっては、
雑談で終わらせて欲しい話ではなかったのだろう。
あっさりと、片手間に、失恋させられて。
さらにお嬢様育ちで自尊心が強い彼女だ。プライドを大いに傷付けられた。それが原因で愛情が一気に憎悪に変化し、健人君に強く当たってしまうようになったのだろう……。
健人君は悪くない。
が、麻里亜ちゃんの気持ちがわかる私にとっては彼女の健人君に対する態度を咎める事は出来なかった。
「麻里亜ちゃん……やっぱりまだ健人君のこと好きなの?」
「……当たり前じゃない!だからこんなに苦しんでるのよ!」
そこで私ははっとした。
彼女は苦しんでいるんだ。私がもっと早く彼女の暴走を止めていれば、そうはならなかったはずなのに。
「やっぱりそうだったんだね……。ごめんね、私が麻里亜ちゃんをちゃんと諫めてあげれば良かったね……」
「……悠里のせいじゃない。私も本当は気付いてた。言い過ぎてるって。いじめてるんだって。でも止まれなかった……」
きっとプライドの高い彼女だ。相手を罵り貶めることによってマウントを取ることが快感になっていた部分はあったと思う。
「……健人に傷付けられたと思っていたけれど、私も彼を傷つけてた……もう彼を憎む権利は私には無いみたいね」
「……そうだね」
「……でも、私はこれが麻里亜ちゃんにとっていい機会になると思ってる」
「……どう言うこと?」
「麻里亜ちゃんは健人くんに愛情と憎悪。二つ感情を向けてたよね。……でも、そこから憎悪することが出来なくなるなら、愛情だけが残るじゃん。また健人君のこと愛せるじゃん」
「そんなの暴論よ……」
間違いない。自分でも些か無茶な考えだと思う。
けれど、同時に今の彼女にはその無茶な考えが必要だとも思った。
「暴論でも論の一つだよ」
「……でも、健人彼女いるじゃん……」
「別れたらしいよ」
昼休みに健人くん自身が言ってたらしいと私も人伝に聞いた。
その話を聞いた麻里亜ちゃんは、とんでもない勢いで飛びついてきた。
「本当!?」
「本当。麻紀ちゃんは美人で一つ上の私達の学年でも有名だからね。その子が別れたって話だからとんでもない勢いで拡散されてたよ」
彼女はみるみる顔を明るくさせた……と思ったら、また俯いてしまった。
「……でも絶縁宣言された」
「そんなの、取り消してもらえばいいだけじゃん」
「……どうやって?」
「まずは誠心誠意彼に謝らないとね。もし、それで取り消してくれなきゃもう一度考えよ?」
「謝るなんて……そんな柄じゃない」
「じゃあ一生絶縁状態だね。」
「………それは嫌、絶対に」
「健人くんを諦めたくないならまず謝らないといけない思う」
「わかった。……ありがと、悠里」
顔面蒼白だった麻里亜ちゃんの頬に少し赤みが戻った気がする。
「どういたしまして」
麻里亜ちゃんに元気が出て良かったな。
心からそう思った。
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