ラストヒロイン


「健人!身が入ってないわよ!」


「す、すみません」


放課後でのバイト。自分でも集中しようとしてはいるが、莉子の事で頭がいっぱいで栄美子さんに叱られる始末。


自分的には、莉子への態度はあれが妥当だと思う。けれど彼女は、俺の態度に泣いてしまうほど大きいショックを受けていた。


少しキツく当たり過ぎてしまったかもしれない。


これで彼女がヤケになって問題でも起こしたら、俺が更生の機会を奪ってしまった事になる。


「はぁ……」


思わず溜め息をついてしまった。



「健人、溜め息ついちゃってどうしたのよ」


「す、すみません」


「謝って欲しいわけじゃないのよ、た、ただ……と……と、友達なんだから相談ぐらい乗るわよ!」


栄美子さんなりに俺の事ことを心配してくれているのだろう。


以前の彼女からは想像出来ないような事だが、ありがたい限りだ。


……せっかくだし相談に乗ってもらうのも悪くないのもしれない。


客足が丁度遠のいてきたので、栄美子さんに今日の出来事を掻い摘んで話してみた。


もちろん、一部は有耶無耶にして。


「つまり、貴方の妹に何かやらかした女の子が告白してきた。その子を冷たく振ったら、相手は大きなショックを受けたらしく泣き出してしまった。少しやりすぎてしまったのかと悩んでいると」


「……そう言うことです。何をやらかしたのかは聞かないでくれると助かります。あまり人に言いたいものじゃないので……でも、かなり酷い事だったとは伝えておきます」


「そこを教えてもらわないとハッキリしない部分はあるけど、まあ良いわ……そうね、この話を聞いて分かった事といえば、貴方が優しい人だってぐらい」


「……そんな事無いですよ。俺、許せない事があったら女の子にも怒りますし」


「私に言わせてみれば、怒るっていう行為も一つの優しさだと思うわ。相手の悪い部分を教えてあげるって意味ではね。私も貴方に怒られて気付かされた部分もあったし」


少し脱線したわね、と言って彼女は続けた。


「貴方がこの話で悩んでいるって事は、妹ちゃんに何かした相手を気にかけているって事でしょ?その時点で既に相手の女の子は幸せな状況にあるの。……だから貴方が悪いなんて事はあり得ない」


なんだか褒められているようで少しこそばゆい。


「……そうですよね。ありがとうございます。……少し楽になりました」


「べ、別にどうって事ないわ!……これからも悩みがあったら……わ、私に相談しなさいよね!話ぐらいは聞いてあげる!」


なんだかんだで俺を気にかけてくれる良い先輩だ。


「……紆余曲折あったけど、俺の教育係が栄美子さんで本当に良かったです」


俺が本音を吐露すると、彼女は顔を真っ赤にしながらそっぽを向いてしまった。


「ほ、褒めても何も出ないわよ!」


「何か出るなんて思ってませんよ」


「そーゆーことを言ってるんじゃないわよ!……というか、健人、モテるのね」


「あ、ありがとうございます?」


あまりにも唐突だったためか、何故か疑問形で返答してしまう。


「なんで疑問形なのよ!」


……案の定ツッコまれてしまった。


その後、集団のお客さんが来るまで他愛の無い話をしていたが、少し栄美子さんが不機嫌な様子だったのが気になった。


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「健人、モテるんだ……」


帰り道。すっかり暗くなった空に私の独り言は消えていった。


告白されたって彼の口から聞いた時、一瞬頭が真っ白になった。


「なんなのよ……もう」


無性にむしゃくしゃした。彼が他の女に迫られていると思うと胸が張り裂けそうになった。



彼と険悪になっていた時、無性に寂しくて。バイトがつまらなくて。仲直りしてまたお話出来るようになって。飛び上がりそうな程喜んでいる自分自身に困惑した。


……この頃からだったのだろう。


必死に誤魔化そうとした。初めて落ちるそれは、少女漫画のように刺激的なものになると思っていた。


でも現実はそうもいかなくて。


一緒にいるうちに、いつの間にか──


「……好きになってた」


彼の全てが愛しくて。そばにいるだけで心臓がバクバク言って。いつの間にか目で追ってしまって。


これが、これが──


「初恋……」




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