お久しぶりです、先輩
「はぁ……」
今日は7時間授業からのバイト。中々ハードな一日が予想され、思わず俺はため息をついた。
教室に入るとクラスがにわかにざわついていて、俺は違和感を覚えた。
心なしか俺に視線が集まっているような気がする。
「健人、おっす」
「おっす悠人。……なんか教室いつもよりざわついてないか?」
「あ、あぁ……」
「なんだよ、なにがあったんだよ」
歯切れ悪そうに言葉を詰まらせる悠人を見て、違和感は次第に膨らんでいく。
「いや、あの…1年A組のあの事件の事で……な」
光のいじめの件か……
光がいじめられたあの事件は、俺が光のクラスに凸ったあの日から物凄い勢いで校内に拡散されていった。
最たる原因としては、教育委員会に報告が行ったことにより、調査が入ったことだろう。もちろんそれには母さんや光自身、俺も協力している。
調査の結果、莉子を含むいじめの加害者が特定され、無期限の停学処分。クラス替えも実施された。
ここまで大事になれば校内で拡散されるのも無理はない。俺としては光が晒し者にされている気がしてあまり好ましくはないが。
ちなみに教師は減給処分になったようだ。
少し処分が足りない気がしない訳ではないが、いじめというものは教師の目の届かない所で巧妙に行われることが多いので、妥当だと思う事にした。
「で?そんな歯切れ悪くされても困るんだが」
「いや、その……停学になった奴ら、今日復学した訳よ」
まじか。無期限停学って1ヶ月程度で解けるもんなのか。
……謝罪文でも学校に出したのだろうか。
「……それで?」
「復学した奴らの中にお前と仲良かった後輩いたじゃん?……莉子ちゃんだっけ?がさっき教室に来てさ……その、熱い愛の告白をしたわけよ」
「は?」
「えっと、なんだっけ……健人先輩愛してます。今日の放課後屋上で待ってます。……だそうだ」
……愛してますだと?光をいじめたくせにどの面下げて言ってるんだ?
「本当に意味がわからん」
「俺もわからねぇわ。……そもそもあんま言っちゃなんかもしれないが、いじめられたのお前の妹ちゃんだろ?自分がいじめた子のお兄ちゃんに告白したって事だよな?」
「まあ、そうなるな」
放課後、か。ガン無視決め込むのもいいが、どうして光をいじめたのか、とか聞きたい事は山ほどある。
……行ってみるか。
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放課後。
屋上に続くドアを開ける。古びているからか、キィと不快な音が鳴った。
というかこんな簡単に屋上に行けていいのか?鍵もろくに掛かってないし。
「せんぱ〜い!」
ドアの音で俺が来たのに気づいたのか、こちらにブンブンと手を振る莉子が見えた。
俺が莉子に近づくと、莉子は俺に抱きついてきた。
「すんすん。……先輩だぁ。本物の先輩ぃ……」
抱きつきながら俺を見つめる莉子は、酷く恍惚としているのがわかった。
「お、おい!離せ!」
以前の俺なら莉子に抱きつかれるのは満更でも無かっただろうが、彼女が光をいじめていた事実を知った今はそうもいかない。
「せんぱぁぃ、なんで拒絶するんですかぁ?彼氏なんだからしっかりしてくださいよぉ」
「……は?彼氏になった覚えはないんだが」
「何言ってるんですかぁ?私が先輩に愛の告白をしたことを知った上でここにいるんでしょぉ?もう相思相愛じゃないですかぁ」
なに言ってんだ、は俺のセリフだわ。
濁った目で俺を射抜く莉子。よく見ると随分とやつれたようにも見える。
「……俺が光をいじめたお前の事を好きになる訳が無いだろ!」
俺の気持ちはこれに限る。少なくとも今は彼女を好きにはなれない。
俺の言葉を受けてか俯いた莉子。彼女の表情は伺う事が出来ない。
「………なんで」
「なんでって……当然だろ。妹をいじめられて良い気分になる兄なんていないんだよ」
「……なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんで!どうして私を拒絶するの!受け入れてよ!」
突然ヒステリックになった莉子。態度とは裏腹に、濁った瞳はどこか縋るように俺を見つめていた。
だが──
「無理だ」
きっぱりと俺は言い切った。少なくとも光への謝罪無しにこの気持ちが変わる事はないだろう。
茫然とその場にへたり込んでしまった莉子。好きな人に拒絶されるのは相当なショックなのだろう。
だが、それは莉子の自業自得。光をいじめさえしなければ少なくとも、俺が莉子をこんなにこっぴどく拒絶する事は無かった。
「……うぅ………う……ぐす」
……いたたまれない気持ちになる。が、今の俺に莉子に貸す胸は無い。
これ以上対話は出来そうにないので、退散する事にした。
泣きじゃくる莉子に背を向けて。
あとがき
いじめの処分については自分なりに調べてみてこのようにしたのですが、何処かおかしい所があったら教えてください!
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