麻紀の過去
「あの時って、確か小学校2年の頃のことか?」
「うん。みんなから馬鹿にされてた私を守ってくれたよね」
「あー、なんだっけか。確かうんこ漏らしたんだよな」
「ッ!深くは振り返らなくて良いの!」
恨めしそうにジト目で俺を見ながらも、顔は赤くなっている。
麻紀が乙女な反応をしたからか、シリアスな雰囲気が少しだけ柔らかくなった気がした。
「……まあでも事実だもんね。小学校2年生の頃、うんちを漏らした私に対して、周りはからかったり、避けたりしてたよね」
なんで漏らしたかは聞いてないし、聞く気も無いのだが、なんとなく予想はつく。
小学生、特に低学年の頃は、トイレでうんこをするのはなんとなく恥ずかしいみたいな雰囲気があった。
それに、麻紀が便意を催したのは運悪くも授業中。
これは小学校に限る話では無いが、授業中にトイレに行こうとすると、周りの目もあってか勇気がいる。
恥を忍んでトイレに行くか、授業中は我慢するか、その二つを天秤に掛けた結果、麻紀は我慢する方を選んだのだろう。
そして、その結果漏らしてしまったと。
「……辛かったよな」
「うん。女の子だし、揶揄われるのはほんとに辛かった。毎日家で泣いてた。……でも、健人が私を守ってくれた。学校が嫌で嫌で仕方なかったけど、健人がいたから頑張れた」
当時、麻紀が辛そうにしているのを見て「俺が守らないと」という使命感に駆られたのを覚えている。
「でも、私のせいで健人が嫌われちゃった。本当にごめんね……」
「気にすんな。お前を守れんならどうって事ない」
揶揄う男子には喧嘩を挑み、女子には平手打ち。
そんな事を繰り返していたのだから、周りから嫌われるのも必然だったのだろう。
でも俺は、今も昔も全く後悔していない。むしろ幼馴染を守れて誇らしいまである。
俺の返答に満足いったのか、麻紀は満面の笑みを俺に向けた。
「それから私は健人に纏わり付くようになったよね。最初は揶揄われたくない一心で纏わり付いてたけど、何度も何度も健人に守られているうちにいつの間にか依存して。そして好きになって。健人に溺れてた」
「……」
「……健人が私をこんな女にしたんだよ?私を健人無しじゃ生きていけない女にしたの。だから責任とって?私を受け入れて?」
おもむろに麻紀は手を動かす。手は俺の頬から胸、お腹、膀胱へと伝って、そのまま俺の物に触れようとして──
「お兄ちゃん!麻里亜先輩とたくさんお話し出来たから皆であ………そ………」
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「いてて……」
正座は勘弁してくれよ……
眼前にはプリプリと怒る光。そして麻里亜先輩。
横を見ると俺と同じく正座させられている麻紀。
「なあ、どうして俺もなんだ?」
麻紀はわかる。俺を押し倒して股間に触れようとした場面を見られたのだからな。現行犯だ。
「健人、貴方凄い鼻の下伸ばして満更じゃ無さそうだった!……そ、それに……お、おっきくしてた………」
麻里亜先輩が恥じらいながらも俺に指摘する。
うん。……これは謝罪一択だな。
「…すみません、やっぱり俺も一介の男子高校生なもんで、……不覚にも興奮してしまいました」
丁寧な言葉遣いで必死に反省をアピールする。
チラリと横を見ると、光が麻紀に説教していた。
光が麻紀担当で、麻里亜先輩が俺担当って訳か。
「健人!余所見しないで!」
麻紀と光に送っていた視線を直ぐに麻里亜先輩に戻す。
「す、すみません……」
「許さない!罰として今度私とデートすること!」
……ん?なんか麻里亜先輩私利私欲に走ってませんか?
「わかったわね!」
「は、はい!」
なんか勢いに任せて了承してしまったが、麻里亜先輩にいいように操られた感が否めない。それに─
「お兄ちゃん!麻里亜先輩とデートってどういうこと!?」
やっぱりこうなるよな。
「わ、悪い。やっぱり無しに─「私ともデートしてよね!」
ん?デート自体はして良いのか?光の事だからやめさせようとすると思ったんだが……
「私ともだよ?」
「お、おう」
なんかなし崩し的に3人とデートをする事になってしまった。
「麻里亜先輩、取り決めはちゃんと守ってくださいよ」
「もちろん」
ん?取り決めってなんぞ?
「取り決めってなに?」
麻紀も疑問に思ったらしい。
「後で麻紀ちゃんにはメッセージ送るから」
「え?俺には教えてくれないのか?」
なんか仲間外れにされた気分だ。
「お兄ちゃんに関しての取り決めなのに、お兄ちゃんに教える訳無いでしょ?……いや、教えても良いんだけど、なんか恥ずかしいし」
「わ、わかった」
こう言われるともう聞き出せないな。
「じゃあ私はそろそろ失礼するね」
時計を見ると3時近くを指していた。
「麻里亜先輩、もう帰るんですか?」
「本当はもう少しいたいけど、習い事があるの」
そういえば元々3時までしか遊べないってメッセージアプリで言ってたな。
彼女に習い事を頑張るよう伝えると、「じゃあね」と一言告げて颯爽と去っていった。
「麻紀はどうする?」
「もちろんまだまだいるよ?」
「麻紀ちゃんまたお兄ちゃんの事襲うつもりでしょ!今日はもう帰って反省して!」
「うぐ……わかったよ……健人、やっぱ帰るね」
「お、おう。じゃあな」
どうやら麻紀も少し罪悪感を感じているのか、光の言葉に素直に従って帰っていった。
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