ヤンデレヒロインがおならしたのでイジったら返り討ちに遭った
ブッ!
と大きな音が鳴ったのは、つい先程の事。
現在、リビングにてテレビ鑑賞に興じている訳だが、父さんと母さんは相変わらずまだ帰ってこなくて、ここには俺と光しかいないため、必然的に「誰が」の部分が明確になってしまう。
「……お兄ちゃん下品だからやめて」
「……いや、それは無理があるだろうよ」
光は何としてでも誤魔化したいようだが、俺からしてみればこれも一種の生理現象だ。俺と光は家族なのだから、別段恥ずかしがる事は無い。
ただ、光からすれば好きな男の前で屁をこいてしまった訳だから、気が気でないだろうが。
「……幻滅した?」
絞り出したかのように小さい声。
光は恥ずかしさからか、顔を真っ赤にしながらも、縋るような目で俺を見てきた。
まるで「一切してない」の一言を求めているような。
そんな光を見た瞬間、俺の中で変なスイッチが入ってしまった。
「……心底幻滅したよ」
俺が言葉を発した直後、空気が間違いなく凍った。
「う、うそ……冗談……だよね?お兄ちゃんがそんな事言う訳ないもんね……うん、そうだ。聞き間違いだ」
「……」
「なんか言ってよ……ねぇ……お兄ちゃぁん……」
「気持ち悪い」
「ッ!なんでよ!お兄ちゃんだってしょっちゅうおならするじゃん!私はそんな所も含めてお兄ちゃんの事が大好きなのに!酷いよ!最低!お兄ちゃんなんて大っ嫌い!」
大好きからの大っ嫌いが来て面食らってしまったが、これは良い材料になる。次はここから切り込んでみようじゃあないか。
「そっか。お兄ちゃんも光の事大っ嫌いだから、それだけ見ると両思いだな」
「……」
呆然とする光。そんな彼女の瞳は急激に潤いを持ち、遂にはブワッと決壊した。
……流石にいじめ過ぎたな。
「……なーんてな。全部嘘。幻滅も、してないし、気持ち悪くもない。ましてや大っ嫌いな訳ない。光の事は大好きだ」
ネタバラシをした訳だが、当の光はまだ呆然としたままであり、彼女の瞳は、虚空を映していた。
……ちょっとやりすぎたな。反省だ。
俺は動かない光を両腕で優しく包み込む。
いつもハグをねだってくるので、今日はお詫びに俺からハグをしてあげよう……みたいな魂胆である。
「……光、痛い」
光も抱きつき返してくれるのかと思ったが、彼女は俺の胸をポカポカとかなりの強さで叩き始めた。
「お兄ちゃん、に……今度こそ……嫌われたんじゃないか……って……頭、真っ白に……なって……」
「前々から言い続けてるけど、俺が光を捨てる事は無いし、嫌いになる事なんて一生無いからな」
光の頭をあやすように優しく撫でる。こんなやり取りを何回こなしたかわからないが、根気強く何度も言い聞かせるしか無い。
「今度から……冗談でも……止めてね。……本当に……そんな事、言われたら……死んじゃうから」
今回のドッキリは完全に俺の自己満だったようだ。
光を傷付けるくらいなら、もう一生ドッキリなんてやらない。
「わかった。悪かったな……よしよし」
ぐりぐりと頭を擦りつけてくるので、撫で返してやる。
「何して欲しい?」
最早恒例となっているが、俺がやらかした分、光の願いを叶えるとしよう。
「……お兄ちゃんにもっと甘えたい」
「……と、言うと?」
これ以上光を甘やかすプランが見当たらない。それに、甘やかすぐらいならいつでもウェルカムである。
「お兄ちゃんがお父さん役で、私が娘役ね」
「え?」
「だから、お兄ちゃんが父親役で、私が娘役ね」
「いや、聞こえてたけど……え?」
「わかった!?」
「わかりました!」
強めの圧を掛けられたので、つい了承してしまったが……正直よく分かってない。
光は、一つ深呼吸をすると、つぶらな瞳を上目遣いにして──
「パパッ!パパッ!あのね!きょうのがっこー、わたち、がんばったよぉー!」
……えぇ?
「お、おぉ!そっかそっか!光は偉いなぁ〜お父さんも誇らしいぞ!」
俺は役者か何かだろうか。唐突かつ困惑不可避のこのノリに着いていけるのは俺だけだという自負がある。
「パパ!頭撫でて!ごほーび!」
「いつも学校頑張ってて偉いぞ〜よーしよし」
「あのね!ひかりね!将来パパと結婚すりゅー!」
「いやいや、きっと光には良い人が見つかるさ」
「は?娘の願いは叶えるもんでしょ?」
「わ、わかった!パパと結婚しよう!」
「うん!約束だよ!ゆーびきーりげーんまんうーそつーいたーら針千本の苦痛じゃ済まされないぐらいの地獄を味合わせてからこーろす!ゆーびきった!」
「……光さん?」
「約束、しちゃったね!兄妹だから結婚出来ないけど、事実婚なら出来るもんね!」
ん?なんか思った以上にヤバい事になってないか?
「いや、でもあれはパパとの約束だから。光のパパは俺じゃないだろ?」
「ふざけるのも大概にして。さっき私にした事覚えてるよね?」
必死に言い訳するも、即死亡。いつの間にかヤンデレ化していらっしゃった。
「将来はどこに住みたい?東京周辺も良いけど、田舎もまた一興だよね!私的には一軒家が良いけど──」
なんか人生設計してらっしゃる光を置いて、今度は俺が呆然としていた。
「……とんでもない事になった」
思わず、そう零してしまったが、無理もないだろう。
ヤンデレをいじると、何十倍にもなって自分に返ってくる。深くそれを思い知った。
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あとがき
うちのヒロインはおならします()
でも、可愛い子のおならなら、OKです!
更新遅れました。ちょっと上手く書けなくて……すみません。
それはさておき、今回光をいじめ抜いてくれた健人君。(返り討ちに遭いましたが)
ドSタグは本来罵倒してきた女子用に用意した物なのですが、まさかこんな形で役に立とうとは……と、謎の感慨を覚えております。
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