全員(莉子以外)参戦!
「健人、どういう事なの?」
「……流石に酷いと思う」
「私達全員に告白されたってわかってるわよね、その上で旅行に行ったわけ?」
左から麻紀、麻里亜先輩、栄美子さん。急に来たと思ったら、俺は無事説教を喰らっている。どうやら莉子は呼ばれなかったようだ。
「……なんでみんな知ってるんだ?」
俺は勿論伝えていない。隠すつもりはなかったが、言うとそれはそれで面倒なことになると思ったのは事実である。
となると光が彼女達に教えたとしか考えられないが……はて、そこまで光は彼女達との間に交流があっただろうか。
そう疑問に思って聞くと、栄美子さんが口を開いた。やはりこの中では最年長の栄美子さんが仕切り役のようだ。
「前の誕生日会の時に健人が好きな女子だけでチャットアプリのグループを作っておいたのよ。そこで光ちゃんが教えてくれたわけ」
やっぱり光だったかと思い、チラッと彼女の方を向くと、ニシシとさながらいたずらっ子のような笑みを浮かべていた。
視線を前の3人に戻すと、いやはや鬼の形相……とまではいかないが、怒っているのが一目でわかった。
もうこうなってしまったら謝る他無い。いくら付き合ってはいないとはいえ、彼女達から告白されている身としては軽率な行動だっただろう。
「本当に悪かった。みんなを傷つけた」
誠心誠意、心を込めて謝る。
「体の関係は無いのよね?」
「それは断じて無い!」
「信じていいのよね?」
「むしろ信じてください」
「やだ」
「え」
「頼み事をする時はそれ相応の対応ってものがあるでしょ?」
やはり大学生と言ったところか、中々手厳しい。
が、確かにこの件に関しては謝って済むなら警察いらない理論が適応されてしまうので、栄美子さんが言っていることは正しいのである。
「……俺はどうすれば」
「ここにいる3人、いや、光ちゃんも入れて4人に対して1人一回、なんでも言うことを聞くなんてのはどう?それで手打ちでいきましょう」
まるで最初から回答を用意していたかのように栄美子さんはスラスラと言葉を紡いでいった。
嵌められた、と思ってももう遅い。
勿論、ここで俺がこの提案を断る事も出来る。
が、そもそもこの件に関しては俺が完全に悪いので、この提案を受け入れるしかない。
「……せめて常識の範囲にしてくれよ」
「栄美子さん、やりましたね!」
「やったー!」
「えぇ、上手く行ったわ」
「健人になんでも……ふへへ……」
喜びを分かち合う麻里亜先輩と栄美子さん、そして光。
あと、1人トリップしている者がいるが……まあ、置いておこう。
「健人」
栄美子さんは俺に声を掛けると、急に手を後ろにしてモジモジし始めた。
何事かと思った矢先、彼女は口を開いた。
「私のプロポーズ、受けてくれて嬉しいな」
……わざわざ英語にせんでもよかろうに。
と、突っ込んでみるも、俺も彼女と同じように顔が赤くなっているだろう。
先程とは違って間違いなく鬼の形相をしている後ろの3人は、見て見ぬふりをした。
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嵐のように去っていった3人。例のなんでも言う事を聞くやつの内容は後日伝えるらしい。
どうやら内容はグループ内で審査されて、全員の了承を得て初めて認められるらしい。
安保理みたいなもんだなと思ったが、過去にソ連がしたように、拒否権連発されたら永遠に認められる事はないのでは、と思ってしまう。
……まあ、そこまで子供じゃないよな。上手くみんなで妥協点を見つけるのだろう。
「お兄ちゃん!」
リビングのソファーでテレビを見ながらくつろいでいると、光が俺と向かい合うように膝の上に座ってきた。
……まあ、いわゆる対面座位である。
「お兄ちゃん、テレビ消して」
恥ずかしさで頬に熱が籠りそうだったがそれも直ぐに引いていく。
怒っている。どうやらまた俺はやらかしてしまったらしい。
「また俺何かやっちゃいました?」
「お兄ちゃん、ふざけないで」
「ごめん」
「お兄ちゃん、目逸らさないで。テレビもうるさいから消して。私の事だけ考えて」
すぐに消した。が、目を合わせるのは中々難しい。近いし、ほんの少し恥ずかしい。
前はそんな事なかったのに。
かと言ってこのまま膠着状態になる訳にもいかないので、意を決して光と目を合わせる。
眉間に皺が寄った光。それでも可愛いのは彼女の罪ともいえる。
「お兄ちゃん、あの3人が本当にあの程度しか怒ってないとでも思ってた?」
「……いや」
正直、違和感はあった。好きな男が他の女と旅行に行ったんだ。もっと怒ってもおかしくない。
「お兄ちゃんが鈍いから教えてあげる。……私が3人を宥めてあげたの。確かにあの3人に教えてあげたのも私だよ?でも私が教えてあげなくてもいずれバレてたから」
「どういう事だ?」
「莉子ちゃん、SNSでお兄ちゃんとの旅行で撮った写真とかあげてたの。勿論顔は加工されてたけど、それも申し訳程度。同じ学校の麻里亜ちゃんとか麻紀ちゃんにはバレても不思議じゃなかった」
「マジか」
「マジ。だからその前に私が3人に教えたの。勿論最初は3人共ショック受けてたけど、お兄ちゃんがずっと海外に行きたかった事とか、莉子ちゃん以外に大人がいるとかちゃんと伝えて、宥めたの」
「そんな事が……」
全く知らなかった。
「お兄ちゃん、もう気づいてるよね?私にとっては3人にショックを受けてもらった方が都合がいいの。でも、そうはしなかった。……全部、お兄ちゃんのためだよ。お兄ちゃんに褒めてもらいたくて、頑張ったんだよ?」
「ごめん。全然気づかなかった。……ありがとうな」
光の頭を撫でる。怒っている彼女にやったら怒られるかと思ったが、俺の胸にぽすんと頭を預けてきたので、その心配は無さそうだ。
「本当はお兄ちゃんが自分で気づいて欲しかったのに……まだ怒ってるからね!だから、なんでも言うこと聞くやつ、私だけ2回分!」
「……それで許してくれるなら」
「じゃあ、今すぐ使うね」
光は頭を俺の胸から上げ、顔を近づけて──
唇同士が、触れ合った。
光は顔を真っ赤にしてリビングから出ていった。
「あー、マジか………」
拒絶しようと思えば、出来た。それでも、俺は受け入れた。嫌悪感は無かった。
もう普通の兄妹に戻れない事は、明白だった。
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あとがき
光回は終わりなんてほざいてる奴がいたが、そいつは信用しない方がいいです。
光回が異様に多い理由は勿論あります。ちょっとメタい話になりますが、やっぱり血が繋がっている訳で、そこの心境の変化は丁寧に描写していかないとダメかなぁと思っているからです。
ちなみに、今作者的に危機感を覚えているのは莉子と麻里亜です。
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