1%の人間(ちょっとえっち)


「光。これから学校はどうする?嫌なら行かなくてもいいし、転校したっていい」


「……やっぱり学校に行くのは、ちょっとやだな」


当然だ。いじめられたんだからな。


「しばらくは休むか。今はネットでも勉強は出来るしな」


「……そうする」


この日の夜。父さんと母さんが帰ってきた後、

 光が学校でいじめられていたこと、学校はしばらく休みたいことを話した。


どうやら養護教諭が母に電話で事情を説明していたらしく、さほど大きなリアクションは無かった。


が、普段はほんわかしてる母さんが、少しイラついているのを感じた。


母さんも娘がいじめられたとなったら気が気でないだろう。


なによりびっくりしたのは、普段からクールな父さんが、光を優しく抱き寄せ、赤子をあやすように頭を撫でた事だ。


光は父さんの胸の中でまた泣き出してしまった。


不謹慎かもしれないが、今回の件で両親の俺達への愛が再確認できた。


家族の絆がより強固なものになったと思う。






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次の日。特に予定の無かった俺は、学校が終わると早々に帰宅した。


「ただいまー」


「………」


返事が無い。


光は家にいるはずだが。出掛けてるのか?それとも部屋か?取り敢えず部屋を見に行くか。


階段を上がり、光の部屋の前に着いた。


ノックをしようとした時、


「あっ……あっ……んん!……」


くぐもった、艶のある声が聞こえた。


「………」


……そうだよな。光もそういうお年頃だもんな。


ここは兄として聞かなかった事にするのがいいだろう。


「……ん!あん!……お兄ちゃぁん……」


……俺は何も聞いてない。そう自己暗示して、階段を静かに降りる。

だが、心の動揺は隠せなかったのか、階段の最後の一段を踏み外し、大きな音をたてて転んでしまった。


いつもは転ぶなんて事無いのに。なんでよりにもよって今なんだ!


なんて自分を責めてももう遅い。


光が部屋から出てきた。


熱中していたのか、イヤホンでもしていたのか分からないが、流石にこれほど大きな音をたててしまったため、俺がいる事に気付いたようだ。


「お、お兄ちゃん……おかえり……」


「お、おう。ただいま」



「お兄ちゃん、その体勢……階段から降りてきた時に転んだって事だよね?……つまり、私の声、聞いちゃったって事だよね?」


鋭すぎる。


「いや、1人でするのは悪いことじゃないぞ?お兄ちゃんだってするしな」


「その……あ、喘ぎ声の事じゃなくて……途中私がお兄ちゃんの名前を叫んでたこと……」


「……」


俺は口を噤んでしまう。


もちろん光にとってそれは肯定にしかならないわけで……


「お兄ちゃん……私の事、軽蔑した?実の兄の名前を叫びながらスるなんて、気持ち悪いと思った?」


「そ、そんな事ないぞ?一時の気の迷いって奴だよな。俺もあるぞ?シてる時に光の顔が頭に浮かんで、シた後に後悔したこと」


あれは俺にとって黒歴史だ。


その日は、罪悪感が酷過ぎて、まともに光の顔を見れなかったのを覚えている。


……というか、今の発言キモくなかったか?むしろ俺が軽蔑されてしまうかもしれん。


なんて思い、恐る恐る光の顔を窺うと……


「……なんで後悔なんてしたの?」


全く予想出来ない発言に意表を突かれた。


「え?」


「やっぱり、お兄ちゃんにとって私はそういう対象に入らない?」


「いや……入っちゃ駄目だろ……実の兄妹なんだし」


言葉を絞り出す。


「私は……私は、入ってるよ。お兄ちゃんのこと、そういう目で見てるよ」



「………」


実の妹からの唐突な告白に、俺は絶句してしまった。


「私の気持ち、聞いて?」


何か言葉を挟もうとしたが、光のいつになく真剣な眼差しを見て、その気は削がれた。


「近親に恋愛感情を持つって極一般的な家庭で育つ場合は99%あり得ないんだって」


「20歳を超えてもその感情があったら、それは精神に異常があるとも書いてあった」


「ネットでその記事を読んでから、何度も何度もお兄ちゃんが好きな自分は精神異常者なんじゃないかって、本気で悩んだ。お兄ちゃんを何度も嫌いになろうとした。頑張ってこの気持ちを忘れようとした」


「でも、またお兄ちゃんに助けられて、お兄ちゃんは私の王子様なんだって、再確認して。悩んでたのが馬鹿らしくなった」


「20歳になる前にこの気持ちが無くなるなんて、微塵も思えない。お兄ちゃんの事を愛せるなら、精神に異常があってもいい。むしろ、異常であって欲しいとまで思ってる」


突然の事で頭が混乱しているが、それでも光が勇気を出して告白したのはわかる。


ならば、俺もその勇気に応えよう。


「……光。ごめん。俺はお前をそんな風には見れない」


光を傷つけてしまったかもしれない。


そう思って光の顔を窺うも、光はあっけらかんとしていた。


「お兄ちゃんが99%の人間だなんて知ってたよ。でもね?これから私頑張ってアプローチして、お兄ちゃんを1%の人間にしてみせる。……覚悟しててね」


その時、光が見せた笑みは、酷く妖艶に見えた。








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