バイトしたい!金が欲しい!無欲なバカにはなれない!
次の日の朝
「あのー、光さん?抱きついてないで早く学校行きましょ?」
「だーめっ!今お兄ちゃんに女が寄り付かないように私の匂い擦り込んでるから」
昨日、実の妹に愛を囁かれてしまったのだが、それからというもの、光のアプローチがすごい。
この匂いを擦り込むというマーキングまがいの行為もその一環なのだろう。
……といっても俺自身そんなに嫌な気はしないのだが。
外では人の目もあったので、光の激しいスキンシップを上手く躱しながら学校についた。
なんだかんだで朝のホームルームギリギリにきたようで、すぐに健康観察が行われる。
ふと、担任が呟いた。
「今日も須藤は休みか……参ったな」
前の席の空白がここ数日目立っている。
俺がクラスのみんなに麻紀と別れた事を言ったあの日以降、麻紀は学校に来ていない。
正直俺も戸惑っている。
……俺と別れたのがそんなにショックだったのか?
しかし、付き合っていた頃の麻紀の不遜な態度が脳裏にチラつき、この考えを否定する。
麻紀の事を考える時はこの思考で堂々巡りしてしまう。
悶々としている俺だったが、自分で全力無視の誓いを立てた以上、こちらから麻紀に関わるわけにもいかないので、知る由などないのだ。
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ここ最近、周囲の人間との関係性が大きく変わりつつある俺だが、それは生徒会長も例外ではない。
「健人君、募金のお金の集計終わった?」
そう生徒会長の麻里亜が俺に話しかける。
「はい。今さっき終わりました」
「そっか。お疲れ様。最近学校はどう?」
「………」
……全力無視だ。仕事関係の話はするが、他の話は全て無視。
何故だか、麻里亜に俺が事実上の絶縁宣言──と言っても生徒会の活動で否応にも関わらざるを得ないのだが──をしたあの日以来、妙に麻里亜は俺に優しくなった。
どういう感情の変化なのかよく分からない。少しは罪悪感を感じているということなのだろうか。
まあなんにせよ、全力無視をやめる気は毛頭ない。
3ヶ月前から最近までの俺への罵倒、あまつさえ暴力を振るった事を俺は忘れてはいない。
……忘れてはいない、のだが。
無視した時の心底悲しそうな麻里亜の顔を見ると、どうしても罪悪感を感じてしまう。
「最近ね?友達の梨沙ちゃんがね?──
俺に無視されてもめげずにまた話しかける。
この様子を見ても、他の生徒会メンバーは俺が生徒会長を全力無視している事を疑問には思ってはいないようだ。
恐らく悠里さんあたりが事情を話したんだろう。
……まあいい、今日はもう帰ろう。
まだ麻里亜が何か話しているが、挨拶をしてから生徒会室を出た。
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他の生徒会メンバーもいなくなり、生徒会室には麻里亜と悠里のみになった。
「悠里……今日も駄目だった……」
「まあこればっかりは継続しないとね。健人君も意外と頑固な所あるし」
「でも……ちょっと辛いな……。自分が招いた結果だってわかってるけど、話しかけても無視されて、私の独り言みたいになっちゃって……」
「メッセージアプリとか使ってみたら?対面しなければ意外と話してくれるかもよ?確か交換してたよね?」
「うん。でもブロックされてた……」
「そっか……」
……前途多難だな。
悠里は心の中で呟く。
生徒会室には、重苦しい雰囲気が漂っていた。
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「…バイトしようかな」
リビングでぽつりと呟く。
「お兄ちゃんバイトするの?」
「あぁ、体育祭も終わって生徒会の仕事も一段落ついたからな。後は金が欲しい」
と言っても受験勉強が本格化するまでになりそうだけど。
「私もやる!」
「光は学校にもし復帰したら陸上部との掛け持ちになる。それまでだったらいいけどな。だけど、学校行かずにバイトに行くってのもおかしい話だろ?」
「ぐぬぬ……」
「唸っても駄目だ」
「……わかった」
渋々諦めてくれたようだ。
「お兄ちゃんと一緒に居られる時間が少なくなっちゃう……」
「バイトが無い時は構ってやるから我慢してくれ」
「やった!お兄ちゃん大好き!」
知ってるよ。なんたって告白されたからな。
「ちなみにどこで働くの?」
「ここから一駅先のファミレスにしようかな。高校生歓迎で求人出してたし」
「そっか。………お兄ちゃん」
「ん?」
「そこの女に色目使っちゃ駄目だからね?」
そう笑顔で言った光の目に、ハイライトは見当たらなかった。
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