光の嫉妬
「お帰り!お兄ちゃん!」
相変わらず玄関で俺を出迎えてくれる光。
「ただいま……」
「どしたの?疲れちゃった?」
「まあ今日は少し長めにシフト入れたってのもそうだけど、色々あってな…」
色々、というのは勿論栄美子さんとの仲直りの件なのだが、どうもその件もあってか少々疲れてしまった。
仲直り自体は決して悪いことじゃない…むしろ良い事なのだが、栄美子さんが唐突にデレ期に入った事で、脳が追いつかなくてパンクしてるのかもしれない。
なわけないか。
なんて一人で自問自答していると、光が食いついてきた。
「その色々ってやつ、後で聞かせて!」
「わかった。じゃあ俺が飯食べ終わったらな」
「ご飯中でいいじゃん。早く食べよ?」
「まだ食べてなかったのか?もう8時近いぞ?」
相変わらず父さんと母さんは帰って来てないか。
どこで何をしているのやら。
「だってお兄ちゃんと食べるご飯の方がそうじゃない時の何十倍も美味しいから待ってたの!」
ニッとはにかみながらそう言った光。
「お、おう……そっか」
少々照れてしまったのは仕方の無い事だろう。
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「「いただきます!」」
「お兄ちゃん!さっきの話聞かせて!」
「いきなり食いついてきたな……まあ、いいか」
光に栄美子さんとの仲直りの話をした。
やはり、彼女と仲直り出来たのは自分的にも嬉しかったのか、いつもより饒舌に話をすることができたと思う。
話すことで飯が食べられなくて、途中で盛大にお腹を鳴らした事は忘れたい。
「ふぅ……そんなところかな」
一通り話終えた所で光を見やると、やっと彼女の様子がおかしい事に気づいた。
「……お兄ちゃん。その港さんと栄美子さん?と仲、良いんだね」
「あ、あぁ……」
「お兄ちゃんがバイト頑張ってるからって私が家で寂しいの我慢してる時に、お兄ちゃんは女の子と話してたりしてたんだ……」
……嫉妬してるのか?
「家で光に寂しい思いをさせてるのは悪いと思ってる。でも話す事に関しては、バイト仲間と一切喋らない方が異常だろ?」
「そうだけど……おかしい事じゃないってわかってるけど……モヤモヤする」
「……」
「こういう話聞かされるとモヤモヤするし、お兄ちゃんが取られちゃうんじゃないかって不安にもなる……」
……そうだよな。確かに好きな人が他の女の話をしていると、そこにどんな事情があっても不安にもなるよな。
「ごめんな。完全に配慮が足りてなかった」
「いいの。私が勝手に嫉妬してるだけだから……でも」
「でも?」
「……お詫びはして欲しいかな?」
なんだか急に胡散臭くなってきた。が、俺の配慮が足りてなかったのは事実なので、ここはそのお詫びとやらをするしかない。
「……何をして欲しいんだ?」
少々怪訝を込めて俺は言う。
「何もしなくていい。いや、抵抗しないで欲しいと言った方がいいかな?」
すると急に俺との距離を詰めて、首にキスをしてきた。
「お、おい!何やってるんだよ」
俺の静止を無視し、未だにキスを降らせる光。
光のキスは、バードキスとは違い、何度も何度も俺の首を深く吸ってくるものだった。
まるで何かの跡をつけようとしているような。
「……キスマークか?」
「うん!お兄ちゃんに他の女が近づかないようにマーキングしておくの!」
そう言って無邪気に笑う光の目には以前と同じ様にハイライトが見当たらなかった。
「……こんな事相手の同意無しにやっちゃ駄目だ」
苦し紛れに俺は言う。
「でもお兄ちゃんの心臓凄いバクバクいってたよね。抱きつきながらキスしたからバレバレだよ?」
「……」
ぐうの音も出ないとはこの事か。
「……次は気をつけろよ」
顔が赤くなっているのを自覚しながら、逃げるように部屋に戻った。
部屋で鏡を使って首元を晒す。
「跡……ついてるな……」
明日はコンシーラーとか塗って学校行くか……
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