3rdドS

下駄箱で靴を履き替えていると、声を掛けられた。


「せーんぱいっ。今日も辛気臭い顔してますねっ」


「うっせーっての」


この女子は後輩の赤村莉子。俺の一つ下の高校一年生。光と同じクラスでもある。


後輩のくせにわ俺をよく小馬鹿にしてくるが、莉子はドSだ。


前に、「先輩ってほんと陰気くさいですよねー」なんて言われて割と本気で傷ついた時、俺の顔を見て心情を察したのか、


「言いすぎました……ごめんなさい。本気で言ったわけじゃないんです」


と、謝ってくれた。


なんだかんだで超えてはいけないラインが見えていて、超えてしまってもきちんと反省して謝罪できる。


だから莉子に全力無視をする必要はないと思ってる。ドSだけどな。


「そういえば、先輩って麻紀先輩と別れたってほんとですか!?」


「あぁ、本当だ」


「じゃあ今絶賛フリーですよね!?」


「まあ、そうなるなあ」


「かわいそー」


「うっせぇ、俺には光がいるからいいんだよ」


「………」


「どうした?」


「ん?なんでもないですよー」


「ならいいんだが」


「先輩っ!ここで会ったが百年目!途中まで一緒に帰りましょう!」


「最近お前と帰る事多いな」


「先輩に一緒に帰る人がいないから仕方なーく私が一緒に帰ってあげてるんですよ?」


「まあ麻紀とも別れたし、光は陸上部だし、間違っては無いんだがな」


「じゃあ出発進行!」


「お前は相変わらずテンション高いな」


「先輩といるから高いんですよ?」


「…ッ!」


こういう事普通に言ってくるんだよなぁ


「あれぇ?先輩ドキッとしちゃいましたぁ?」


「…してねーよ」


「嘘乙ってやつですね!」


「うるせー」


なんだかんだこいつと一緒に帰るのは楽しかった。



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次の日。


学校は恙無く終わり、今日も莉子と帰宅した。


「ただいまー」


まあ光は部活行ってるし誰もいないよな。


「…おかえり」


居たわ。


「今日は部活じゃなかったのか?予定表にはそう書いてあったけど」


光は予定表を冷蔵庫に貼り付けるタイプなので容易に俺も確認できる。


「元々無かったんだけど顧問が作成ミスでありにしてたらしい」


「そっか」


「うん………」


「何かあったのか?」


「……どうして?」


「浮かない表情してるから」


まるで昨日の再現だな。俺と光の立場は入れ替わってるけど。


「……何でもないよ」


「いや、なんでもないなんてことないだろ。」


「……なんでもないって言ってるじゃん!」


どうやらこれは触れて欲しくない内容だったらしい。


「ごめん」


「……私もごめん」


そう言って光は部屋に戻っていった。


何があったんだ?朝はこんな事無かったのに。


学校で何かあったのか?


妹の事情に兄貴が首を突っ込むのは野暮だとわかっているが、なにかあったのなら、助けたい。


同じクラスの莉子にメッセージアプリで聞いてみるか。


「莉子、一つ聞いていいか?」


すぐに既読になり、返信がくる。


「はい!スリーサイズでもなんでも聞いてください!」


「スリーサイズは聞かんわ」


「先輩、我慢しなくてもいいんですよ?」


「してねぇわ」


「意固地な子ですねぇ」


「聞きたいことってなんですか?」


「あぁ、光のことなんだけど」


────────────



────────



────


─ん?


既読無視か?


と思った矢先に返信が届く


「彼女がどうかしましたか?」


「あいつさぁ、今日クラスで何かあった?」


「何もありませんでしたよ」


「いや、なんか家で物憂げだったからさ。何もないんならいいんだ。ありがと」


「いいえ。どういたしまして」


なんだ?急に敬語なんて使っちゃって。




……まあ、ともかく収穫は無しか。


まあ俺の杞憂だったって線もあるからな。


どちらにせよ、光の様子を少し注視した方が良さそうだ。




──それから一週間。光は次第に暗くなっていった。



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やはりおかしい。俺の前では無理に明るく振る舞おうとしてるらしいが、流石に違和感を感じる。


SNSでのトラブルの線などもあるが、やっぱり俺は学校で何かあったんだと疑っている。


本人から直接聞き出そうとしたが、光は断固として「何でもない」を貫いている。


「……行ってきます」


前までは明るかった挨拶も、もう見る影もない。


「あぁ、朝練頑張れよ」


そう言って俺は光を送り出した。


その後、リビングに戻るとピンク色の弁当箱があった。


「……昼休みに届けるか」


==================================


「確か光は1-Aだったよな」


2年の教室が集まる3階から、2階に降り、1-Aの教室の前に着いた。


中に光がいるか窺う。


最悪、光が俺の教室へ弁当を取りに行って、入れ違いになってる事もあるからな。


おっ、いたいた












……ん?なんか様子がおかしくないか?


光の席の周りに俺からは背中しか見えないのだが、5人の女子生徒が囲んでいる。


そこから俺は違和感を感じた。


見る限りだが雰囲気が、友達とのそれとは程遠い気がする。


嫌な予感が脳にちらつく。



聞き耳を立てて彼女らの会話を探る。


教室には、昼食を食べる生徒が大勢いたが、光の席が扉から近いこともあり、なんとか会話が聞こえた。


「光ちゃ〜ん、弁当無いの〜?」


「もしかして家貧乏?」


「仕方ないから〜、私のウィンナー一つあげるね?」


「……」


「感謝ぐらいしろよ」


「あ……ありがと」


「はい!じゃああげるね〜……っあ!ごっめぇん、落っことしちゃったぁ。でも、私がせっかくあげたウィンナー食べてくれるよね?」


「……うん」


「じゃあ、口をすぼめて?まだ噛んじゃだめだよ?」


光は涙目になりながら、言われるがままに口を窄める。


そして主犯格と思われる女子生徒は、光の口にウィンナーを出し入れする。


まるで、男女のある行為を揶揄するかのように。


クソ! 


こんな事なら様子を見るんじゃなかった!


バンッ!と大きな音をたててドアを開ける。


そして、気づいていない様子の女の箸を後ろから叩き落とす。


そこまでされて女はやっと振り返った。


それにつられて取り巻き達も振り返る。



そして、目が合った。







なんで。なんで取り巻きに……莉子がいるんだ?


なんで。なんで。


………。


そうだよな。そんなの決まってるじゃないか。

そういう事なんだ。


「なにするのよ!」


主犯格の女が囀っているが、それを無視して俺は口を開く。


「莉子、お前はいじめには加担しない人間だと思ってた。そういう線引きは出来てる人間だと思ってた」


「いや、ちがっ、その、」


彼女は顔面蒼白にして慌てている。


「いい後輩だと思っていたのに、こんな形で裏切られるとは思っていなかった。もう金輪際光に関わるな」


呆然としている莉子を置いて光に優しく話しかける。


「光……辛かったな……もっと早く来てあげられなくてごめんな……」


「……うぅ…っ…うぅ……っ」


唸りながら泣き出してしまった。


俺は無言で胸を貸す。教室には、沈黙が訪れていた。


随分と注目を集めてしまったようだ。


俺は光を連れて足早に教室を出る。


その後、保健室に行って事情を説明し、早退させてもらった。特別に俺も。


この件は、養護教諭の先生から先生方に報告してくれるらしい。


光のクラスの担任は何をしていたのか。怒りすら覚えるが、まあ、今はいい。


俺は光の手を握り、帰路に就いた。








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