ドS(元)彼女の心の内


部屋に戻ると、携帯が鳴っていた。


そう言えば今日携帯持ってくの忘れたんだっけ。


着信履歴を見ると麻紀からだった。かれこれ50件以上不在着信が溜まっている。…とりあえず着拒だな。


…メッセージアプリも凄い事になってるな。


未読メッセージが999+になっている。開いてみると…


「電話出なさいよ!」


「ふざけてるの!?」


「ねえ」


「ねえ」


「ねえ」


「ねえ」


「ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ」


…。


とりあえず一通り目を通して謝罪が無いことを確認するとブロックした。アプリでも直後に謝ってくれたら対話の余地はあったのだがな。


残念だ。

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薄暗い部屋の中に体育座りで縮こまる一人の女がいた。


「うぅ……健人ぉ…」


目尻に涙を浮かべ、そう呟く。


「着信拒否なんて…あんまりだよぉ…うぅ……ぐす…うぇぇぇん!」


遂に堤防が決壊し、水分が溢れ出た。


「言ってたじゃん…罵られたいって言ってたじゃん…だから…必死に演技してきたのにぃ!」


思い出すのは健人と付き合う少し前、教室での健人と彼の友達のやりとりを盗み聞きした時の事。




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「健人ぉ!昨日のリサたん最高だったな!」


「ほんとそれな!あれは国宝だわ」


心が凍てついていくのを自覚した。


誰だよ、その女。


健人を誑かす女なら、消そう。


「やっぱ深夜アニメは趣きがあっていいな!」


「趣きってなんだし」


アニメか。本当は二次元でも私以外の女を見て欲しくないが、ギリギリ許せる。


「やっぱりリサたんのドSぶり半端ねぇな!」


「ほんとそれな。リサたんに「罵られたいわ」」





………え…健人ってドMだったの…?





そっか。そうなんだ。なら、私が健人の欲求を満たしてあげるしか無いわね♪







それから私は罵倒を必死に練習した。


アニメで勉強したり、実際声に出してみたり、罵倒をするときは心が大いに苦しかったがこれも健人のためだと思えば頑張れた。健人の理想の女子になってると思うと自然と気分が昂揚した。





…でも…でも…事は最悪な方に転んでしまった。






…今から思えば、健人の「罵られたい」発言は冗談だったのかもしれない。






…私…一人で勘違いして…健人を傷つけて…







…ごめんね…健人…。




でも、貴方の事、本当に大好きなの…




諦めたく無いの…



明日の朝、健人とお話ししよう。



でも…拒否されたら…



不安で不安で仕方がない。



「健人ぉ…」




意味もなく、愛しの彼の名前を呼ぶ。






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