overseas

「健人!あーん!」


「健人、私が食べさせてあげますね」


両脇にて俺にスプーンを向けるのは麻里亜先輩と栄美子さん。俺の両脇の席を巡る死闘……もといじゃんけんでの勝者である。


「お兄ちゃん!またデレデレしてる!」


「健人にあーんして良いのは私だけ……私だけなの……」


豪勢な料理が乗る机を挟んだ向かい側、ヤンデレズが恨めしそうにこちらを見ている。


向かい側から俺に食べさせる事は出来なくはないのだが、料理が袖に付いたり、他の人が料理を取りにくくなってしまう。2人もそれを弁えているのか、ただ文句を垂れるだけだ。……1人ヤンデレの片鱗を見せているが、見なかったことにしよう。


……と考えている間にも、両脇の2人は可愛らしい顔でじっと俺が食べるのを待っている。


このままずっと待たせる訳にもいかないし……腹を括るしかなさそうだ。


俺は立て続けに2人のスプーンの上に乗ったケーキを食べる。


「どう?美味しい?」


「美味しいですよね?」


透かさず2人して俺に感想を求めてくる。


「美味しいです」


いや、まあ普通に美味かったから素直に伝える。


「そうだよね。私達にあーんされたらそりゃあどんな料理でも美味しくなっちゃうよね」


「間違いないですね」


……ん?なんか2人とも仲良くなってないか?


やっぱりお嬢様同士何か通ずるものでもあったのだろうか。……まあともかく、喜ばしいことではある。


「お兄ちゃん……私よりその女達がいいんだ……へぇ……そうなんだ」


「私だけの特権だったのに……」


またヤンデレズがぶつぶつ何か言っているが、対岸の火事とも言う。向こう岸の事は俺はノータッチだ。ただ、間に挟まれているのが海ではなく机なので、このことわざが通用するかは怪しい。



「健人がこんなにモテてるなんてお母さんびっくりよ〜。やっぱりお父さんの子供なのね〜」


そう言って母さんはケーキをキッチンから取ってきた。


パーティーも終盤。このまま何事も無く……いや、既に何事もあったな……このまま荒れずに終わって欲しいと願うばかりだ。



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「じゃあ私から渡すね?」


ケーキも食べ終わり、俺へ誕生日プレゼントを渡す流れになった。


「はい!私からはお財布!……私が中学1年生の時にあげたお財布まだ使ってくれてるけど、もうそれもボロボロでしょ?だから新しいの買ったの!」


なんだかんだで3、4年近く麻紀に貰った財布を使っている。確かにもうボロボロだ。麻紀から貰った物なので出来るだけ長く使いたいが、そろそろ替え時だと思っていたので嬉しい。


「ありがとな。大事にする」


「うん!」


「じゃあ次は私!お兄ちゃんには………」


光は机の下から何かを引っ張り出した。


「じゃん!筋トレ用のローラー!前に筋トレしなきゃなぁって嘆いてたじゃん?……だからこれがいいかなって思ったんだけど……」


不安そうに上目遣いで俺を見てくる。確かに誕生日プレゼントに筋トレ用のローラーってのはレアケースなので、彼女なりに不安だったのだろう。


「いや、丁度欲しかったんだ。ありがとな」


ごく自然に、まるでそれが当たり前かのように光の頭を撫でる。すると光は目を細め、見る見る顔を蕩けさせる。今にも喉を鳴らしそうである。


「ちょっと!」


麻里亜先輩からツッコミが入る。他の女子2人も何処か不満気だ。


……光はちっこいから丁度俺の肩ぐらいに頭のてっぺんがくるもんで、撫でやすいんだよな。


「つ、次は私ね!はい!これは定期入れ!安物だけど一生懸命選ん──」


俺が光を撫でるのを遮るように間に入ってきた麻里亜先輩。

そうなると、俺の目と鼻の先に彼女の顔が来るもんで……


「ありがとう。大切にします」


「ひゃ……ぁ……ひゃい………」


顔を真っ赤にして後ずさる麻里亜先輩。……いや、めっちゃ動揺してるやん。かく言う俺も顔が赤い自覚がある。


麻里亜先輩から定期入れを受け取り、何気なくチラリと光を見ると……


「許さない………」


激おこだった。


……そんなに撫でるのを邪魔されたのが嫌だったのだろうか。


「……光、少し落ち着きなさい」


この声は……父さん!?いつの間にか戦地トイレから帰ってきたのか!正しく英雄の帰還である!


「むぅ……わかった」


父さんに諭された途端、光は直ぐに静かになった。


……うん。なんだかんだで父さんの言う事はすぐに聞くんだよなあ。やっぱり光はブラコンでもあるがほんの少しファザコンの気もある。


「次はわたしですね」


麻紀、光、麻里亜先輩がプレゼントを渡し終わった為、大トリの栄美子さんの流れになる。彼女は自らのバッグから何か小さな箱のような物を取り出した。


「……はい!男の人はあんまり付けないと思うんだけど、ネックレスにしたの」


ネックレス……付けた事こそ無いが、少し興味はあったので素直に嬉しい。


「ありがとうございます………ん?なんか形……」


疑問に思ったが最後。一瞬で全てを悟った。


「そう!これ実は私とペアになってて、合わせるとんです!」


「……健人?まさかそれ付けたりしないよね?」


「お兄ちゃん……わかってる?」


「健人?」


……いや、まあ……そうなるよな。


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全員が帰宅した後、俺は自室で今日の出来事を振り返る。

多々事件はあったが、なんとか平和?に終わったパーティー。俺の事を好いてくれている女子は、莉子以外は全員集合したのだが、取り敢えず死人が出なくて何よりだ。



ん?………莉子?あっ、そういえばポストにプレゼント入れとくって言ってたな。


疲れた体に鞭を打って、ポストへ向かい、中を覗き込む。


「やっぱあったな」


茶色い封筒が入っている。間違いなく莉子からだろう。自分の部屋に再度戻り中を確認すると、何か細長い紙が入っていた。


「えーっと?………グアム二泊三日旅行券……そっか、グアムか………………………………は?」


2人で楽しみましょうね♡


よく見ると、封筒の後ろにそう書いてあった。


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あとがき


莉子は相変わらず自分をいじめた相手の兄を海外旅行に誘うとかいう地雷プレイをかましてますが、光はどう思うのでしょうか。次回明らかになるはず。








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