俺がヤンデレ製造機な理由
「健人、この後部屋に来てくれないか?」
「ん?りょーかい」
土曜日。家族4人で食卓を囲んだ後、父さんにお呼ばれする。
特段珍しい事でも無いので、適当に返事をした後
に、膝の上にいる光を降ろそうと彼女に目配せした。
「やだ!やだやだやだ!」
……参ったな。
光はどうやら不満らしい。頬を膨らませて赤子のように駄々をこねる姿は高校生にはどうしても見えないが、とんでもなく可愛らしい。
「後で一緒に寝てやるから、それで我慢してくれないか?」
「むぅ……わかった」
俺がここで一つ交換条件を出すと渋々と言った様子で了承してくれた。
光はこうやって攻略すれば割と言う事を聞いてくれる。長年お兄ちゃんをやってた俺が言うんだから間違いない。
そんな光を背に父さんの部屋に向かう。
「入るよー」
特に返事も聞かずにズカズカ父さんの部屋に入るが、特に咎められる事も無かった。
普段お呼ばれした後は、一緒にゲームをしたりして遊ぶのだが、今日は打って変わって対面するように座るよう促された。どうにも訝しんでしまうが、素直に座る。
ほんの少し間が介在した後、父さんがゆっくりと口を開いた。
「健人、今日はお前に言っておかないといけない事がある」
「……言っておかないといけない事?」
「お前には、フェロモンがある」
………はい?
いきなり過ぎて、よくわからなかった。急に話があるって言われた直後に「フェロモンがある」「はいそうですか」とはならない。
「ちょっとようわからんよ。父さん」
「まあそうだよな。……でも、間違いなく心当たりはあるはずだ。例えば麻紀ちゃんとか。彼女に関して、こう思った事は無いか?自分への執着が凄いって」
父さんがどんな話をしようとしているのか、少しわかった気がした。
「……ある。正直ね」
「そうか。やっぱりあるか。……よし、一から説明していこう」
父さんはそう言葉を発した後、俺のフェロモンについて詳しく話始めた。
「俺達の家はな、代々男が女に依存されやすい体質を携えて生まれてくる……まあ、俗な言い方をすると、相手がヤンデレ化するんだ」
先程のフェロモンも件があったからか、それほど驚かなかった。
「もちろん、いきなりこんな事を言われて信じるという方が無理がある。非科学的だし、なによりそんな大人の本みたいな体質はある訳ないと。……でも、さっきの麻紀ちゃんを思い出してくれ。この体質に当てはまらないか?」
「当てはまるね。ガッツリ」
これに関しては、間髪入れずに答えられた。
「このフェロモンに関しては分かっている事はほぼない。だが、分かっている事ももちろんある。フェロモンは、当事者に長く愛情を持った女性ほど色濃く効果が現れる。……つまり、健人にとっては麻紀ちゃんが一番このフェロモンの影響を受けている」
どこかで腑に落ちた自分がいた。それほど、身に覚えのあるという事なのだろう。
「……じゃあ、麻紀からの好意はこのフェロモンの影響だったってこと?」
「いいや、違う。これも数少ない分かっている事の一つになる。と言うのも、フェロモンが効果を発揮するのは少なからず自分に好意を持った異性だけらしい。そうじゃなければ今頃この世の中の女性全員が俺達一族に依存しているはずだ。……つまるところ、少なくとも麻紀ちゃんの好意は偽物なんかじゃない」
澄ました顔をしているが、内心そうであってくれて嬉しかった。
俺に惚れてくれるのなら、俺自身に惚れて欲しいのであって俺のフェロモンに惚れて欲しくはない。
「そっか、かなり衝撃的だけど、普通に身に覚えがありすぎて納得出来る」
自分の体にフェロモンがあるなんて未だに信じられないが、信じなければならない。今までの俺の女性関係が物語っている。
「でも、どうして今になって急に言おうとしたの?」
「いや、最初は言わないつもりだった。でもな、前の誕生日会に色々な女子が来てただろ?やっぱりあの時だな。不味いと思ったんだ」
「不味い、とは?」
「あの時会った女子は全員健人に好意があるように見えた。……つまり、これから彼女達は健人に依存していく。このまま彼女達と距離を取らなければ、尚更」
彼女達と距離を取らなければ、か。
「……中々辛いな、それ」
そう素直に嘆くと、父さんは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……そうだよな。これは俺の不手際だ。本来俺達の家は複数の女性から依存されないように小さい頃から許嫁を決める風習なんだ。……まあ、つまりだな、恋愛対象を先に縛っておいて、他の女子から惚れられないようにしようみたいな作戦があった」
確かに、先に許嫁を決めておく事によって、他の女子にアプローチする事は無くなるだろう。勿論、許嫁に満足出来ればの話だが。
「父さんも?」
「そうだ。母さんとは実は3歳からの許嫁なんだ。許嫁以外の女子と気安く話さないように教育もされた」
「じゃあ、なんで俺には許嫁がいないの?」
「今の時代は自由恋愛が至上だからと言えばわかるか?健人には人並みに恋をして、ただただ幸せになって欲しかったんだ。……ただ、少し自分達の血を甘く見過ぎていたのかもしれないがな。思った以上にうちの息子はモテるらしい」
「……」
うん。親に茶化すでもなく真剣にモテると褒められるって、なんて返答したらいいかわからん。
父さんもそれを察してくれたのか、咳払いを一つ落とした後、父さんから話を振ってくれた。
「まあ、つまり俺が言いたいのは、健人にはこれを踏まえて女の子達との関わり方を考えて欲しい。某誠みたいに刺されたくなければな。ちなみに、父さんはSchool yearsを全話視聴して反面教師にした。おすすめだぞ」
……反面教師にするならば間違いなく俺にとっても最高の学習アニメだ。
「……School yearsは置いといて、父さんは母さんとしか付き合えなかったんだよね?なんか後悔とかしてないの?」
藪から棒かもしれないが、父さんはハーレムアニメを見て多くの女子と付き合いたいとは思わなかったのだろうか、と疑問に思った。
「いやー、父さんも他の女子と恋愛したかったぞ。まあ、母さんがいる時点で厳しいんだけどな!
HAHAHAHAHAHAHAHA──
いつもは厳格な父は、ゲームの時や、俺や光と話す時にたまーにタカが外れたようにハイテンションになる事がある。そして、いらん事を口走る事もある。
父さんの背後に、一つの影が現れた。
「あなた?私にも詳しく聞かせてくれる?」
父さん。反面教師にしたんだったら背後は危険だって学んでおけよな……。
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