今なんでも言う事を聞くって言ったよね?(麻里亜編)
今回は麻里亜先輩とのデート。どうやら電車を使うらしく、駅前で待ち合わせである。
「健人!お待たせ!」
「いえいえ、リアルガチで今来た所なんで……って、今日の麻里亜先輩なんか………カジュアルですね」
今回の彼女の服は、上下ともにゆったり……いや、ブカブカで、上に関しては、どこか彼シャツのような雰囲気がある。
「ご、ごめん。あんまり似合わなかったよね……」
俺が彼女の服を評論していると、麻里亜先輩はあからさまに落ち込んでいた。
……これは言葉にしなかった俺が悪いな。
「そんな事全く無いですよ。今回も似合ってます。いつも麻里亜先輩は色んな方面からお洒落してて、凄いなって思います」
こういうのは社交辞令だと思われる場合があるので、俺が本心から伝えていると教えるために、彼女の目をしかと見て話した。
すると、対面の麻里亜先輩は、みるみる顔を赤くして、ついには目を逸らした。
「ありがとう……でも、そんなに見つめちゃ……だめっ……」
「ご、ごめんなさい」
「「……」」
急に麻里亜先輩が色っぽい声を出すから、変な空気になったじゃないか。
「よ、よし!じゃあ……行こうか?」
「うっす!」
麻里亜先輩がこの雰囲気をリセットするかのように、強引に場面を変えようとする。
もちろん、変な空気が続いて欲しくはないので、俺も少し戯けてそれに便乗した。
「……ちなみにどこへ?」
案の定、今回も俺はどこへ行くか伝えられてない。
「まだ内緒!……って電車来ちゃう!早く行こ!」
なんか誤魔化された感があったが、実際電車が迫っていたので、走ってホームへ向かった。
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「麻里亜先輩、アニメとか好きだったんだ。少し意外です」
「特別好きってわけじゃないよ?でも、健人がアニメ好きだから、喜んでくれるかなって思って……」
チラチラと心配そうに俺を見る麻里亜先輩。俺がどう思っているのか気になるのだろう。
「実は、前から少し興味あったんですけど、一人でコスプレショップってのも、中々厳しくて……。なので、めちゃくちゃ喜んでます!」
「……そっか。……そっか!良かった!」
安心したのか、満面の笑みを浮かべる麻里亜先輩。……うん、浄化されそうなくらい可愛かった。
しかしまあ、コスプレショップか。とんでもない所に来たもんだ。
いざ自分がコスプレするとなると恥ずかしさがあるが、郷に入っては郷に従え。ここは楽しむ事にしよう。
ここの店は、コスプレスタジオもある大型店舗なので、衣装の貸し出しや撮影も別料金でやっているらしい。それも良いかもしれないな。
不意に、袖を引っ張られる感覚がある。そちらの方を向くと、案の定犯人は麻里亜先輩だった。
「健人、何か私に着て欲しいのって、ある?このお店、色んなアニメの服揃えてるらしいから、多分あると思うけど……」
……正直、ある。だけど、麻里亜先輩にあんなの着させていいのか?
……いや、当たって砕けろだ。試しにお願いしてみよう。そうしよう。
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「健人ぉ……これ、見えちゃうからぁ……」
端的に言うと、着てくれた。
彼女が着ているのはリサたんのデビルモード時の服だ。
デビルと言うだけあって、角が生えていたりするのだが、注目すべき所はそこではない。
露出面積が、デカいのだ。
申し訳程度しか隠れない乳と局部。上品な表現をすると、情欲を掻き立てられる。まあ、つまりエロい。
「麻里亜、めちゃくちゃ似合ってる」
つい、タメ口を使ってしまうほど、俺は興奮していた。
「……恥ずかしいよぉ」
顔を赤くしながら腕を使って胸と局部を隠す麻里亜先輩。その仕草は男を余計獣にさせると分かっていないようだ。
………ちょっと待てよ?
落ち着いて、俺は後ろを見渡した。
「だよな、そうなるよな」
男達が横目で麻里亜先輩を凝視していた。ここはコスプレ以外にも、カードやアニメグッズもあるので、それ目当てに来ている人達だろう。……いや、横目で凝視っておかしいな。……でも、それ以外に表現が思いつかん。
要は、見ていないふりをして猛烈に見られているということだ。……まあ、気持ちはわかる。こんなエロい女がいて見るなって方が無理がある。
それでも、無性にイラついた。
「麻里亜先輩、撮影してみましょうか?俺は主人公のコスプレするので、一緒に撮りましょう。……店員さん、撮影お願いしてもいいですか?出来れば女性の方で」
「はい!分かりました!」
元気よく店員さんが返事をしてくれた。
「えっ!?ちょっと、私の意見は?」
「今決めてください。そのコスプレ、他の男達に見られるか、俺だけに見られるか。2つに1つです」
勿論、撮影の時でも女性のスタッフの方に見られるし、他のコスプレイヤーと鉢合わせる事も十分にあり得るだろうが、そういうのは置いといて。
「……撮影する」
彼女は、俺が強引に撮影のスタジオに連れ込もうとする理由がわかったようで、途端に顔を赤くしながらも了承してくれた。
自分で着させておいて、付き合ってもない麻里亜先輩に独占欲発動させるなんて、なーに考えてるんだろうな俺は。
そう自嘲しながらも、この選択に後悔はしなかった。
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公園のベンチでひとくつろぎ。
「いやー、楽しかったですね」
「そうだね!いっぱい写真撮っちゃった!」
デビル以外にも色々コスプレしていたら、わりかし良い時間になっていた。
かく言う俺も、今日はアニメキャラになりきれて、満足できた。まあ、図らずもコスプレイヤーの努力の跡を垣間見てしまったが。
だが、どうしようか。この大量の──
「写真、どっちが管理します?」
撮影も延長しまくったので、撮った写真がとんでもない量になっていた。けれども、どれも写りが良く、プロの技量が見て取れた。
「はんぶんこにしよ?欲しい写真撮ってく感じで」
「良いんですか?じゃあこの写真貰っちゃいますけど」
俺は戯けて一つの写真を指す。それには、デビルモードリサたんのコスプレをした麻里亜先輩が写っていた。
まあ、ダメって言われるだろうけどな。
「……いいよ」
…………うそ…………だろ?
「健人になら、あげる。健人の好きなように使ってください……」
恥ずかしそうにそう告げる麻里亜先輩。……まあ、ここまで言わせちゃったのであれば受け取る他ないよな。
「じゃあ、貰っちゃいますね?」
「え!?」
「本当に使う、の?」
「使いませんよ!?」
「あ、うん。そうだよね。うん」
「「……」」
また、変な空気になってしまった。
なんとかこの状況を打開しようとどう切り出すか迷っていると──
「健人さ、さっきリサたんのコスプレしてる私の事、他の男の人から遠ざけようとしてくれたよね」
まさかのその話か。正直一番触れてほしくなかった。
「……ごめんなさい。変な独占欲働かせちゃって」
変に思われていないだろうか。そんな思いが俺の心中を支配した。
「違うの。凄く嬉しかった。……好きな人が私の事を独占しようとしてくれるなんて、嬉しくない訳ないよ」
彼女の返答を聞いて、心なしか俺は安堵していた。
「……良かったです。変な男に思われてないで」
「……」
急に黙り込んでしまった。
どうしようかと俺があたふたしていると、麻里亜先輩の透き通った声が、公園に響いた。
「私、健人の御眼鏡に叶ってきてるって事なのかな?」
変な表現だと思ったが、思い出した。彼女が俺に謝って、告白してきた時の言い回しだ。
「御眼鏡に叶うことがあれば、私を彼女にして欲しい」だっけか。
……まだ、その答えを俺は出せていない。彼女が俺の御眼鏡に叶っているのかどうかも分からない。
「……正直、自分でもまだわかってないんです。麻里亜先輩……いや、みんなにどういう気持ちを抱いているのか」
俺は、ずっと秘めていた思いを吐露した。
光や莉子を除いて、みんな俺に過ちを謝罪して、好意を伝えてくれた。
莉子だってやった事は最低だけど、光にしっかり謝罪して前を向こうとしている。
それに対して俺はどうだ。
彼女達の告白は全部保留。現状維持でもうここまできてしまった。
自分でも優柔不断で情けないってわかってる。
でも、分からないんだ。自分で自分の気持ちが分からない。
みんなの良い所は沢山見てきた。でも、それだけじゃなくて、それぞれの問題を見ている自分がいる。
麻紀、麻里亜先輩、栄美子さんの罵倒。莉子のいじめ。光の実の妹という事実。
それらを天秤にかけて、結局ぐちゃぐちゃになっている。
「そっか。まだ、分からないよね」
「……優柔不断ですみません」
「良いんだよ。私だって、貴方を罵倒した時は、自分の気持ちをよく分かって無かったもん。いや、私の場合は見て見ぬ振りをしていただけだから、また違うのかな?」
見て見ぬ振り、か。
何故か、心に深く突き刺さった気がした。
「とにかく!私は待つから!私を選んでくれるように頑張るから!よろしくね?」
「……よろしくお願いされちゃいました」
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あとがき
テスト期間に入ってしまったので、更新遅れてます。ごめんなさい。あと、ノートにも書いたんですけど、主に皆さんの指摘を受けた部分を改稿しています。
混乱を招いてしまって申し訳ありません。ただ、ここまで読んでくださった方々が再度見直す必要がないように注意を払って内容を少し変えています。
ちなみに、リサたんは麻紀と健人の仲を引き裂いた元凶です。覚えてるかな?
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