帰宅


「ただいまー」


「お兄ちゃん!」


俺が玄関を開けると、ノータイムで光が飛び込んできた。予想は出来ていたので受け止められたが、結構な勢いである。


「お兄ちゃんの匂い………やっぱり安心する……」


恍惚とした表情で俺の胸に顔を埋めて深呼吸する光。今回の俺の旅行で光には多くの我慢を強いたので、少し変態チックなのは否めないが、文句を垂れるなんて事はない。


……少なくとも俺は。


「光、もう高校生なんだからあんまりお兄ちゃんにべったりするのは駄目よ」


母さんにとってみれば、兄妹同士の仲が良すぎるのも考えものだろう。


「母さん、ただいま…………父さんは?」


変に光との距離感を注意されるのは嫌なので、自然な流れで話題転換をした。


「父さんは残業よ。最近仕事が忙しいらしくて…… …って、そんなことより!旅行はどうだったのよ!下宿先の方に迷惑かけなかったわよね?」


愛する夫の残業を「そんなこと」呼ばわりするのはいかがなものかと思ったが、確かに事の重大度は旅行諸々の話の方が大きい。……大きいよな?


「大丈夫。紗弥香さんにも一切迷惑かけてないよ。……いや、下宿される事自体が迷惑って言われたらそれでおしまいだけど」


「そう。その紗弥香さん?は向こうに住んでるのよね?今度日本に来る時に挨拶できたらいいわね」


「そうだね。連絡先も交換したし、日本に来ることになったら多分教えてくれるはずだし」


「お兄ちゃん!ゲームしよゲーム!」


子供みたいに俺の腕を引っ張って部屋に連れて行こうとする光。よっぽど俺とゲームがしたいらしい。


「ごめん、母さん。ちょっと光と遊んでくるね」


「……終わったら詳しく話聞かせなさいよ?」


「わかった」


母さんに了解を取った俺は、光と一緒に部屋に向かった。


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「おら!これで──」


「お兄ちゃん甘い!」


「ぬぁぁぁぁ!」


最終コーナーで華麗に抜き去られた俺の相棒。

画面には2ndの文字。


光とレースゲームをやっている訳だが、今の所0勝6敗。


……いや、わかってるさ。俺がゲーム下手な事ぐらい。でも、こんなに負けると流石にやるせない。


「……はぁ」


思わず、ため息をついてしまう程には。


「お、お兄ちゃん!ごめんね!?つまらなかったよね。ごめん。本当に、ごめんね!?」


唐突に焦り始める光。俺が怒ったのだと勘違いしたのかもしれない。


「いや、違うんだ。自分のゲームの下手さ加減に失望してただけ。光はなんも悪くない」


俺がそう弁明すると、光の青ざめた顔は、少しずつ赤みを灯していった。


「……良かったぁ。お兄ちゃんに嫌われたかと思って、一瞬息が止まったよぉ」


ため息つくぐらいでそんなに過剰反応するものなのかと疑問に思ったが、ついさっきまで光の因縁の相手とも言える莉子と俺は旅行に行ってきたんだという重大な事実を思い出す。


光も色々と不安なんだろう。莉子に俺が取られてないか、とか。……伊達に17年も兄妹をやっていない、この見立ては正しいはずだ。


「光、こっちおいで」


ゲームを中断してベッドの上で胡座をかき、そこに光を招き入れる。


光はてくてくとベッドに近づいて、そのまま胡座をかいた俺の足の上にすっぽりとはまった。


「ごめんな。不安にさせたよな。今日は光につきっきりで構ってやるから。いっぱい甘えていいんだぞ」


そう俺が言うと、光は満開の笑顔を咲かせた。


「……やった!じゃあまず頭なでなでして!」


「おう!」


「その後もう一回ゲームして、一緒に勉強して、一緒にお風呂入って、一緒に寝る!」


「……お風呂以外はいいぞ」


気分アゲアゲの光。


かく言う俺も、人のことを言える立場では無かった。


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更新遅れて申し訳ございません。


テストも終わったので、最低週一は投稿できると思います。これからも応援よろしくお願いします。

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