麻里亜を家に呼ぶ
「お兄ちゃんどういう事?説明してよ、ねえ」
先程の上機嫌な光はどこへやら。
ドス黒いオーラを放ちながら俺を詰問してくる。
「説明してと言われましても……」
「いつ?誰?返事は?」
普段の柔らかい彼女の雰囲気からは想像も出来ないような鬼気迫る様子で、テーブルに身を乗り出し俺に顔を近づける。
「き、今日、麻里亜先輩に、お、お断り……」
「あの生徒会長か……」
光の勢いに気圧されて片言のようになってしまったが、光は気にする様子もなく、思案に耽る。
体感1分が過ぎて、未だに黙りこくっている光を訝しんで、彼女の顔を覗き込んだ瞬間──
「その女、ここに呼んで?」
とんでもない事を言い出した。
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結局光の物凄い剣幕に怯んでしまって麻里亜先輩を家に呼ぶ事になった……と言っても今から麻里亜先輩を誘う訳で、彼女が無理だと言ったらそこで終わりなのだが。
「……とりあえず電話かけるか」
ついさっきブロックを解除した麻里亜先輩のトーク画面を開き、通話ボタンを押した。
プルル─「もももしもし!?」
……出るのが早すぎる所とか、「も」が多すぎる所とか色々ツッコミたいが、今は置いておこう。
「こんばんは、麻里亜先輩」
「こここんばんは。ど、どうしたの?……も、もしかして……デートのお誘い?」
期待を孕んだような声で俺に聞く麻里亜先輩。
「違います」
「そっか……そうよね。まだデートに誘われるとか夢のまた夢だよね……」
彼女は意気消沈したように暗い声で呟いた。そんな声を聴くとなんだか申し訳なく思ってしまう。
……ともかく用件を話すか。
「明日にでもうちに来ませんか?」
「……………………………ふぇ?」
「明日にでもうちに来ませんか?」
「き、聞こえてるけど……えぇ!?いきなりお呼ばれ?それはまだ心の準備というかなんというか……嫌って訳じゃないんだよ?」
「妹が麻里亜先輩に会いたいって言ってまして」
なんか勘違いしているようなので訂正の意味も込めて事情を話す。
「あ……そういうことね……わ、わかってたよ!?勘違いとかしてないからね!?」
そういうことねって言っている時点でもう遅いと思うが……
「まあそれは置いといて、明日来れます?もちろん嫌だったらいいんですけど」
「い、行く!」
おぉ、良かった良かった。男の家に行く訳だから断られる可能性も十分にあったので安心した。
「じゃあ詳細は後でメッセージ送りますね」
「わかった!……じゃあまた明日!」
「また明日。おやすみなさい」
そう告げて俺は通話を終了した。
「……これで光の機嫌が直ればいいんだけどな」
あの後から光は少しピリついているように見える。
決して怒っているわけでもないし、むしろ常に笑顔なのだが、なんというか、目が笑っていない。
……まあ好きな人が告白されたってんだから冷静になれって方が無理があるか。
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ピーンポーン
午後1時。
約束の時間ぴったりに彼女が来た。
ガチャリ、とドアを開け、彼女を迎え入れる。
「こんにち──
彼女の姿を見た瞬間、俺は固まってしまった。
髪型は普段のストレートとは打って変わってハーフアップ。
顔も普段の薄化粧とは違って、今話題の……確か地雷メイクだったか?をバッチリ決めていて、それがまたとてつもなく似合っている。
服装も赤のロングスカートに白のボア。
おまけに萌え袖である。
……やばい、ドストライク過ぎる……
最近は鳴りを潜めてしまった感はあるが、元々彼女気が強く、どちらかと言うとクール系のである。
そんな彼女が決めるゴリゴリの可愛い系ファッションは、普段とのギャップも相まって俺に大きな衝撃を与えていた。
「やっぱり変かな……」
黙りこくる俺の様子からよく思われていないと勘違いしたのか、不安げに聞いてくる麻里亜先輩。
「全然変じゃないです。……むしろ、凄い似合ってます」
「ほ、ほんと?……ありがと」
ラブコメ主人公のように「見惚れちゃいました……」とまでは言えなかったが、本心から彼女を褒めた。
当の彼女はニマニマしながらも恥ずかしそうに下を向いている。
どうしてか甘酸っぱい雰囲気が流れたところで、唐突に寒気がした。
「お兄ちゃん、早く案内して」
極寒を思わせる鋭利な声で我に帰ると、光が無表情でこちらを見ていた。
「あ、こんにちは!妹の光です!今日は先輩と話したくてお兄ちゃんに頼んじゃいました!」
打って変わって高い声で麻里亜先輩に挨拶する光。
言葉だけ聞くと、ただ麻里亜先輩と仲良くしたいだけに感じるが、妙に違和感が拭えない。
……結局光は何が目的なんだ?
「生徒会で健人君と一緒に活動させてもらってます。島崎麻里亜です。よろしくね?」
光に応えるように頭を下げて挨拶をする麻里亜先輩。
お嬢様の名は伊達では無く、彼女のお辞儀はどこか品があるように見えた。
「玄関じゃなんですし、3人で俺の部屋にでも行きますか」
そう提案して、俺の部屋に案内しようとした矢先。
ピーンポーンピーンポーンピーンポーン
ドンドンドンッ
ピーンポーンピーンポーンピーンポーン
何事かと思い、恐る恐るドアを開ける。
すると──
「えへへ……来ちゃった」
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