泣き虫
週明けの月曜日。
重くなる足に鞭を打って学校に行く。
「光ちゃん、ただの兄妹にしては距離が近すぎじゃないの?」
俺と腕を組む光に麻紀が諫めるように言う。
「負け犬の遠吠えですか?お兄ちゃんの元カノの麻紀さん?」
今度は麻紀に対して光が煽るように反撃した。
前の食事会では仲良さげだったじゃないか……と嘆きたい所だが、こうなった原因は明白。どちらも俺の事が好きでお互いに敵視しているからに他ならない。
麻紀が久し振りに我が家を尋ねて、一緒に登校する流れになった時には薄々何かありそうだと察してはいたが、やはりこうなったか……
光はなんでも俺達がいい感じにならないように途中まで一緒に登校して、頃合いを見て自宅に引き返すらしい。そこまで面倒なことをするなら登校しろよと思われそうだが、彼女はいじめにあっていた訳で、そんな事は口が裂けても言えはしない。
それに最近光は家に篭りがちなので、どんな理由でも外に出るならば文句は言うまい。引き返す時には1人になるので、そこだけが心配だが。
そんな事情もあってこの状況が成立した訳だが、こんな時、ラブコメハーレム主人公ならば、「周りの嫉妬の視線が痛い……」などとほざきながらも、結局はいがみ合う女子達を止める事も無く、満更でも無さそうに登校するのが正解なのだろう。
だが俺には彼らのように外野に見せつける趣味も無いし、嫉妬の視線は向けられないに越した事は無い。まあこれに関しては2人と登校している時点である程度は覚悟するべきだろうが。
ともかく、この状況は目立つので本気で止めて欲しい。
「おい……2人ともこれ以上争うようなら、俺は1人で登校するからな」
俺は突き放すように2人に言った。
すると2人はみるみる顔を暗くさせ、借りてきた猫のように萎縮してしまった。
「「ごめん……」」
ちょっと強く言い過ぎたか……
「あー……なんだ、そこまで暗くなるなって。まあでも、俺は自分と同じ相手が好きな人を貶すよりも、好きな人に振り向いてもらえるように努力した方がよっぽど効率的だとは思うけどな……って俺が言うのも変な話だが」
「そうだね……私が間違ってた……ごめんね……光ちゃん」
「私もごめんなさい……」
結局その後は、反省したのか口数が極端に減った2人と話が盛り上がる事は無かった。
まあでも、喧嘩するよりは良いよな。
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昼休み
「健人!一緒に食べよ?」
予想はしていたが、案の定麻紀が俺を昼食に誘った。
クラスメイトの困惑の視線が突き刺さる。
以前俺が別れた宣言した事から、この反応は当然だろう。
……これは復縁したと勘違いされるかもな。
麻紀はそれが狙いなのかもしれないが。
「いいぞ」
誤解が解けた今、以前のように彼女を嫌ってはいないので、弁当を食べるぐらいならどうと言うことは無い。
彼女にしてはこれはアプローチなのだろうが、俺にとっては良き友人になるための一歩だ。
「じゃーん!健人にお弁当作ってきましたー!」
「俺も自分の分作ってきたんだけど……」
「男の子なんだから二つどっちも食べればいいじゃん!」
んな無茶な……
かと言って俺の為を思って作ってきてくれたのならば、食べない訳にもいかないだろう。
「……次からは連絡寄越せよな」
「……ブロック解除してくれたの?」
「昨日仲直りしただろ?」
と、俺が告げた瞬間、麻紀は目を見開いたと思ったら、今度は目尻に涙を溜めさせて──
「……うぅ……ぐす……」
泣き出してしまった。
「なーに泣いてんだよ」
随分唐突の事で驚きながらも、そう言って俺は麻紀の頭を撫でる。
昨日もやったが、これは付き合う前からの癖みたいなもんだ。
小さい頃から、麻紀に辛い事や悲しい事があったりして彼女が落ち込んでいる時は、必ずと言っていいほど俺が麻紀の頭を撫でて慰めていた。
……彼女との関係性が変わっても、こういう所は変わらず続けているんだよな。
自分でやっといて難だが、彼女との絆をそこに見た気がした。
そんな感慨に浸っている間も麻紀は涙を押し込むように唸っている。
「……もう泣き止めって」
「……無理……無理だよ……健人に無視された時……もう一生話せないんじゃないかって……不安で不安で……辛かったん……だからぁ……」
だからこうしてブロック解除もされて関係回復していく事に心底安心して、思わず泣いてしまった、と。
教室で泣くなんて、ちょっと前の彼女ならありえない事だよな。
……本当に変わったんだな、麻紀は。
結局彼女が泣き止むまで頭を撫で続けていたせいで、昼休み中に弁当を食べ切る事は出来なかった。
「絶対復縁してんじゃん……」
誰かの独り言は、一つの異論も無く虚空に消え去った。
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