栄美子の過去


「……俺を好きになった理由、聞いてもいいですか?」



「……少し長くなると思うけど、私の過去を聞いてくれる?」


「過去ですか……もちろんです」


俺の返答を聞いた彼女は、ポツリポツリと話し出した。


「……財閥の娘だった私は、幼少期の頃から英才教育を受けていたの。そのお陰か、他の人より精神の発達が早かった。………だからだと思う、小学生の頃は、クラスメイトの下らないノリに上手く乗れなかったし、冷たくあしらったりしてた」


……俺も小学生の頃は今から思うとくそ下らないようなノリで楽しんでいた記憶があるな。


「………当然、私は白い目で見られた。異分子は排除されるのが摂理。……私はこっぴどくいじめられた」


……いじめか。光の事もあったせいか、他人事とは全く思えない。


俺は目線で話を促す。


「……いじめはまだ未熟な小学生の私には耐えがたいものだった。けれど私には、財閥の娘としてのプライドがあった。財閥の娘に恥じないような強い自分を周りに誇示しなければいけない。そう思ったの」


「……」


「きっとその頃からね、私の口調がキツくなったのも。悪口を言ってくるいじめっ子達に対抗して強い口調でこきおろした。私は負けてないって証明するために。心の傷を露呈させないために。……中学生になったらいじめっ子も成長したのかいじめは無くなった。でも、私は心のどこかで怯えていたの。また何かの拍子でいじめられるんじゃないかって」


「……」


「そこからは私の毒舌も役割が変わっていった。……積極防衛っていったらわかるかしら。いじめられる前にこっちから相手をこきおろしに行って相手の心を折る。相手に媚びて世渡りする方法もあったけど、それは私のプライドが許さなかった。不器用な私は、そうやって自分の心を自衛する事しかなかった。……もちろん、中には私に優しく歩み寄ってくる人達もいた。でも私は拒絶した。裏があるんじゃないかって不安だったから」


「……」


「本来この方法は反感を買っていじめられるっていうリスクもあったのだろうけど、私が財閥の娘ってこともあってか、いじめられる事は無くなったわ……でも、その代償に私は孤独になった」


「……」


「……自分で選んだ道なのに、それは酷く寂しくて。でも毒舌は止められない。怖いから。いじめられたくないから。……大学生になった今でも友達なんて言える人なんていない。……貴方以外は///」


……シリアスな雰囲気の中で急に顔を赤くしないでもらいたい。


……まあ、照れてる姿も可愛いけどな。


「貴方だけは私が何度も毒を吐いても笑って受け止めてくれた。私を諦めないでくれた」


バイトの研修の時は結構辛かったけど、麻紀の罵倒で訓練された俺を倒すには及ばなかったな。


「……今まで孤独だった私の側にいてくれる異性なんて、好きになるなって方が無理があるわよね」


長く話していたからか、栄美子さんはお茶をあおって息をついていた。


「……栄美子さんにそんなに辛い過去があったなんて知りませんでした」


「まあ言ってなかったから当然よ………それで?私の告白の返事は?」


「栄美子さんに好かれて凄く嬉しいですし光栄です。……けど……」


「……もう彼女とか……いるの?」


俺の歯切れが悪い事から、いい返事では無いと悟ったのか、不安げに眉を顰める栄美子さん。


「いないです……けど俺、自慢じゃないですけど、今他に何人かの女性から告白されていて……彼女達の返事も保留にしているんです。……だから、まず彼女達の告白の返事をしないと栄美子さんの告白の返事は出来ません。ごめんなさい」


「全然良いよ。待ってあげる。……それに、今返事をもらっても振られちゃいそうだし」


「……どうでしょうね」


この手の返答はなかなか難しく、はぐらかす事しかできない。


「まあいいわ。私の思いは真っ直ぐ貴方に伝えた。……貴方の隣で歩んでいける事を、切に願っています」


敬語はずるい…………


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……まさか、栄美子さんにあんなに暗い過去があるとはな。


帰り道。栄美子さんを最寄りの駅まで送った後、1人夜道を歩きながら思考した。


……栄美子さんにあったように、光にも心の傷がやっぱりまだ癒えてないのかもしれない。


そう考えるだけでいたたまれない気持ちになる。


明日、光と話し合ってみようと心に決めた。


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後書き


栄美子回!


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