麻紀の後悔

健人に振られた次の日。


もしかしたら昨日の事は全てドッキリだったかもしれない。そうに違いない。そう自分に言い聞かせて私は健人と一緒に登校するため彼を迎えに行った。


でもそこでインターホン越しに聞いたのは私を拒絶する健人の声。


頭が真っ白になって、学校に走った。


声で拒絶されただけでも、呼吸も忘れ、胸が苦しくなって、冷や汗が止まらなかった。


その後の教室。


「もうあいつの罵倒には疲れたんだ。昔は優しかったのにな……」


健人の言葉が脳内で反芻される。


あの時は思わずクラスメイトの前で泣いちゃうぐらい辛かったけど。


その後数日は登校出来ないぐらい辛かったけど。


私にはやるべき事が見えていた。


昔の私に戻って健人に謝る事。


たったこれだけだ。


たったこれだけ。



これで健人とも仲直りできるよね。


そうしたらまた健人と付き合えるよね。


そうしたら健人と結婚できるよね。


そうしたら彼との間に子供が出来るよね。


そうしたらきっと老後まで愛し合って、2人で抱き合いながら死ぬんだよね。






なんだ、簡単じゃん。









久しぶりに学校に行くと、たくさんのクラスメイトが心配して声をかけてくれた。


が、正直どうでもよかった。


私が学校に来たのは健人に謝罪をして復縁するため。


目的を果たそうと声を掛けた瞬間。


また頭がまた真っ白になって、心臓のバクバクと手の震えが止まらなくて。


なにより、健人にまた拒絶される事が怖すぎて固まってしまった。


ふと、


「別に、謝らなくていいじゃないか。きっと健人も今までの事はそこまで気にしてないよ」


悪魔の囁きが私を惑わせた。


それに乗せられちゃ駄目ってわかってたのに……


先程まで抱いていた決意がどろどろに溶かされていく。


そして……




「また一緒にお弁当食べない?」


私は逃げた。










我に帰った私は、ひたすら自分の選択を悔いた。


殺したい。あの時の謝罪から逃げた本当に愚かな自分を殺してやりたい。



健人に謝れなかった。その事実が、私が持つ健人への愛が希薄な物だと示しているようで。


悔しくて、悲しくて、苦しくて、


色々な負の感情がブレンドされて、私はおかしくなりそうだった。



あの後直ぐに学校を飛び出して自宅で泣いた。


お母さんは学校を抜け出した事を怒っていたが、私の狼狽ぶりにその気も削がれたそうだ。


一通り泣いて心の整理がついた私は、健人と復縁する算段をもう一度立てていた。


本当は健人に無視された事で、私の心は荒んでいたが、早く立ち直らなければ取り返しのつかない事になる。


女狐共に彼を取られたら私はどうなってしまうのか自分でもわからない。


次はもう失敗しない。














あとがき


ということで麻紀回でした。


彼女が謝罪しなかった理由は根本的には麻里亜と一緒でした。


そして、拒絶の恐怖から逃れたい彼女を惑わせたあの悪魔の囁き、僕自身何度も屈した事があります(笑)


相手は親友で、今まで通り何事も無かったかのようにフランクに接したら別に謝らなくてもいけるんじゃね?そもそももう相手は気にしてないっしょ。


という感じで。


みなさんの中にも同じような経験がある方もいらっしゃるかもしれません。


そのような方には今回の麻紀には感情移入できたと思います。

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