1日目。ビーチ、バスにて


「飛行機我慢できて偉いね〜。よしよし……」


無事にグアムに着いた俺だが、またもや紗弥香さんに頭を撫でられていた。俺自身、途中から飛行機には慣れてきたのだが、紗弥香さんは、俺がずっと飛行機への恐怖を我慢していたと思っているらしい。


……ともかく、撫でて貰えるのであればなんでもいい。慈愛の篭ったその手付きに俺が絆されてしまうのは無理もないのだ。


なので、横で俺達2人をキッと睨みつける女子1人は見なかった事にして、頭に乗る手の感触を楽しむ。


「よいしょ……よいしょ……」


小ぶりな唇を震わせながら紗弥香さんは俺の頭をまだまだ撫でる。フライト前にも思ったけど、ほんとに母性がやばい。


「2人とも!早く行くよ!荷物の受け取りとか色々やることあるんだから!」


堪らず、というように俺達の間に入ってなでなでを妨害する莉子。


正直もっと撫でて欲しかったが、彼女の言うことも一理あるので我慢する。


「わかったぁ。じゃあ2人とも……れっつご〜」


紗弥香さんの間延びした声を聴くと、少し前まで抱いていた異国への不安もいつの間にか吹っ飛んでいた。



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「とんでもねぇな……外国ってのは」


眼前に広がるのは透き通った海。ナイスバディなお姉さんやらムキムキのお兄さんやらが跋扈ばっこしている中、俺はというと軽いカルチャーショックを受けていた。


南国を思わせるヤシの木や、途中で座ったベンチのようなバスの座席。日本との違いがありすぎて、全てが新鮮でワクワクする。


「先輩!お待たせしました!」


「待たせてごめんねぇ、不安だったでしょ〜?」


どうやら2人は着替え終わったみたいだ。


後ろを振り返る。



「おっ………」


思わず気持ち悪い声が漏れたが、俺は決して悪くない。


紗弥香さんのが……デカいのだ。バカデカい。


母性の大きさが胸部の大きさに比例するという法則を発見をしてしまった。これはすぐさま学会に提出すべきだろう。


「先輩……どうですか?」


俺が脳内で学会に提出する書類をまとめていると、もじもじしながら顔を赤くする莉子が俺に尋ねてきた。


先程の法則に当てはめて考えると、母性を感じられなかった莉子の胸部は……。


だが、胸部だけが重要な訳ではない。


その恥じらいながらも俺を上目遣いで見つめる彼女は、至極魅力的に映った。


……ふと、頭に光の顔がよぎる。


「まあ……良いんじゃないのか?」


思わず莉子への返事は素っ気ないものになってしまった。


一瞬頭によぎったが最後。


光という妹がいるのに莉子と海外旅行を楽しんでいいのか。


光を悲しませてないか。


明らかに手遅れな疑問が後からともなく湧いてくる。


………いや、


「……楽しむべきだよな」


せっかく光が俺の意思を尊重してくれたんだ。光のその気持ちに報いるためにも、ここで俺が光を負い目に感じてはダメだ。


そう俺は自己解決した。


……まあでも、今日の夜に電話ぐらいはしておこう。


「もっと褒めてくれてもいいのに……」


ボソっと莉子が呟いたのを俺は聞き逃さなかった。


……莉子と光。いじめっ子といじめられっ子。かたや自殺未遂。かたやヤンデレ。

2人のバランスを保つのは至難の技だ。


……だが、なんにせよ今俺がすべき事は決まっている。


せっかく海外旅行に来ているんだ。莉子には悲しんで欲しくない。


「嘘だよ。めちゃめちゃ可愛い」


正直な気持ちを、口にする。


「はぅ……しぇんぱいも……かっこいいでしゅ!」


顔を真っ赤にしながら海に猛ダッシュしに行った莉子。少し彼女には刺激が強かったかもな。


「紗弥香さん、莉子とはぐれると危ないので行きましょうか」


「うん。でも、私の水着は褒めてくれないのぉ?」


「いや……はい。とても似合ってます」


「ありがとぉ……じゃあ行こっか?」



そう言って小走りで莉子の所へ向かう紗弥香さん。


なにがとは言わないが、縦揺れが半端なかった。 


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海を満喫した後、夕食を買いにショッピングモールに向かうために俺達はバスに揺られていた。


莉子はというと、初日から飛ばし過ぎて疲れが溜まってしまったのか、俺の肩に頭を乗せて熟睡している。


そうなると、必然的に紗弥香さんとの間に気まずい雰囲気が流れてしまう。


どんなに抗っても、俺達は今日初めて会った間柄だ。沈黙は心地よいものになるはずもない。


「健人君はぁ、莉子のことどう思ってんのぉ?」


この状況を打開するために、なんとかして話題を提供しようと頭を回転させていると、紗弥香さんの方から話しかけられた。


「どう……とは」


 「莉子はぁ、健人君のこと大好きじゃない?だからぁ、健人君はどう思ってんのかなぁって」


莉子が俺にお熱の事を紗弥香さんが知っているのに対して意外に思ったが、よくよく考えてみると、グループならともかく好きでもないやつを海外旅行に誘ったりしないだろうし、莉子の態度を見てみると丸わかりだ。

それに紗弥香さんに相談している線もあるので、さしておかしな事ではないと納得する。


「………………恋愛感情は……いまいちわからないです。一度は良いなと思ったけど、その後失望して……でも、今莉子は過去の過ちを悔いているし、行動も起こした。色々なことがありすぎて、自分の中でもうまく整理できてないです。でも、多分現時点では無い、と思います」


俺が正直な気持ちを吐露すると、紗弥香さんは数瞬思考の海に飛び込んだ後、口を開いた。


「莉子の過去の過ちのことぉ、本人から聞いたよ?……莉子ね?今回の旅行のことぉ、凄く悩んでたんだってぇ」


相変わらず間延びした喋り方だが、いくらか言葉に真剣さが混じっているように思えた。


「……そうなんですか」


「うん。自分がいじめた子のお兄ちゃんを旅行に誘うなんて間違ってるんじゃないかー。自分に先輩を好きになる権利なんてないんじゃないかー。って悩みに悩んだって言ってたよぉ?」


「………」


「でもぉ、たとえ自分が間違っていたとしてもぉ、権利なんて無かったとしてもぉ、大大大好きな先輩を離したくないからぁ、光ちゃん?には悪いけどぉ、頑張ることにしたって言ってたのぉ」


「……初めて知りました」


「だろうね〜。本人もぉ、恥ずかしいから先輩には言わないでーっていってたもん」


「え、これ聞いてよかったやつですか?」


「うーん……わかんなぁい。でもぉ、莉子の姉としてぇ、彼女が悩みに悩んでた事を知って欲しかったから言ったんだ〜」


「それはまた……どうして?」


「もぉ、察しが悪いなぁ。もし莉子が変な誤解を受けたりしたらぁ、姉としては気分悪いからだよぉ」


「……莉子は良いお姉さんを持ちましたね」


「私のこと褒めてるのぉ?ふふっ、ありがとぉ」


うん、母性!


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あとがき


莉子がどんな気持ちで健人を海外旅行に誘ったのかわかりましたねー。いじめに関しては本当に後悔しているけど、それでも、光の大好きな(まだ兄妹としてだと思っている)兄を手に入れようと決意を固めると。


どうなんでしょうかね。こういうのは厚顔無恥って言うんでしょうかね。もう作者にはわからないです。




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