第53話 坂井くんだから
ふたりを見ていた僕だったけれど、いつの間にか榊原先輩が真剣な顔へと変わっていたことに気づいた。そんな榊原先輩が僕へと言葉を告げる。風間先輩をちらっと見ながら。
「坂井くん、またこれから宜しくおねがいします。それでですね、今日広斗に来ないでもらったのはひとつ聞きたいことがあったからです。えっとですね。私にも坂井くんの恋人のチャンスはまだあるんでしょうか? 」
まさか榊原先輩がそんな事を言い出すとは思っていなかった僕と風間先輩。ふたり揃って驚いていた。そんな僕たちの顔を見ながら
「ふふふっ私がいきなりこんな事を言うなんてという顔でふたりとも驚いていますね。チャンスがあっても無くても坂井くんから離れるつもりはないです。ただ……少しもチャンスがないということならばそれをわかった上で側にいたいと思いまして……。好きな気持ちはなくなりませんからね……」
と少し不安そうでありながらも榊原先輩はしっかりと僕たちに向けて告げていた。
というかチャンスも何も今の僕に好きな人なんていない。恋愛に関しては。というかどう言うことをチャンスがあるというのだろう。よくわからない。こりゃこまった。でも真剣に告げてきた榊原先輩にはきちんと応えなければいけないと僕は思う。そんな事を考えながらもどうしたらいいか悩んでいた僕よりも先に
「榊原先輩。私と坂井くんは付き合ってないんで。まずそれは伝えておきます。そして私もろくに相手にしてもらえていませんよ。その原因としては、坂井くんに最初近づいたのはこの性格なので気楽に接してほしい、友人になってほしいと近づいたからだと思ってます。でも、居心地よくて……あっという間に好きになったんですよね。不思議なものです。なのでチャンスはあるはずですよ? 私も負けませんけど」
となぜか風間先輩がそんな事を榊原先輩に伝えていた。えっと……なんだか僕よりうまく伝えられてるのか? というかそれでチャンスがあるってことでいいのか? うーーん。よくわからないがとりあえずなにか伝えないと行けないと慌てて僕も思いつくことをその後に続けて告げる。
「えっとですね。チャンスっていうのがどういうものか僕にはよくわかんないんですけど……とりあえず僕は誰とも付き合っていないし恋愛で言う好きは今のところないです。というのも記憶をなくして学校に復帰したのがここ数週間前です。昔の僕には好きな人がもしかするといたかもしれませんが、何もかも忘れてしまった今の僕にそんな気持ちは残っていません。そうそう、学校に復帰してからまともに接した女性って榊原先輩と風間先輩だけなんです。そんな中で他の誰かを好きになるということはまずないですね。ただ、ふたりに対してなんというか好意はありますよ。ふたりだけは気になったり心配したり……そういうことを感じるのですから……ごめんなさい。こんなことしか今は言えないですね。とりあえず僕が思っていることです」
なんとか言葉を告げられた僕。これでいいのか? と思いながらもこんなことしか思いつかないわけで。
そんなあやふやな考えのぼくの言葉だったけれどそれを聞いたふたりは嬉しそうな表情をしていた。そして
「ふふふっでしたらチャンスがあるということで……行かせていただきます」
榊原先輩はなんだか思ったより積極的なんだな……そう思える言葉を言うと、今度は
「今の言葉、聞いて嬉しくなっちゃった。私達ふたりだけだね。うんうん。でも私も負けないわよ」
風間先輩はなぜか榊原先輩と張り合う気満々な言葉を発していた。
そんなふたりを見てなぜ僕をそんなに追っかけるのだろう……そう思ってしまう。本当に不思議すぎる。だからそんなふたりに
「ふたりともきっと素敵な女性なんだろうから他にも居るでしょうに。いつも面倒くさいなんて言ってる僕より……なんで? 」
そう尋ねてみた。するとふたり揃って
「「坂井くんだからかな? 」」
と意味のわからない答えを揃って返してきた。なにそれ? 僕だから?
その言葉を聞いて困惑している僕を見ながらふたりは揃って「してやったり」というような顔をして笑っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます