第32話 捕獲



 今日も僕はいつものように学校へ来て聞いてもわからない授業を受ける。昨日僕が相手に対抗したせいかいじめに関わる人らは朝から寄ってくることはなかった。そして僕はたまに金沢に鬱陶しがられながらも声をかけては関係があると周囲に見せつけておいた。その影響は大きいようで僕と金沢が話している様子を誰もがチラチラと心配そうに見てきていた。


 そして今日は榊原弟の様子が変だった。以前よりも僕を睨む時間がとても長い。そんなんじゃ気付かれるぞ、いや気づいているななんて思いながらもその視線を相手にしても仕方ないのでスルーしていた。ただその視線の原因は昨日榊原先輩が榊原弟と話し合ったせいなのかなあと僕はそう考えていた。




 その日の放課後、僕のもとに1人の男がやって来た。やって来たのは榊原 広斗。まあなにかしてくるかなあとは思っていたが直接来るとは思ってなかった僕。ちょっとは驚いたが気にしないふりをしておいた。


「坂井、ちょっといいか? 話がある。屋上まで来い」


 榊原弟は、僕に命令形で告げてきた。スルーをしても良いんだけどまあどうせ屋上に行くわけだし良いかと


「はいはい。いいですよ。行きますか」


 僕が返事をすると


「先に行く。早く来い」


 榊原弟はそう言って教室から出ていった。にしても榊原弟って偉そうだなあ。あんな態度で取り巻きとも付き合ってるのか? 取り巻きもよく耐えられるなと取り巻きたちを少し不憫に思ってしまった。


 まあそんな事を考えていても仕方ないので僕もさっさと屋上へと向かうことにする。そんな僕をクラスメイトはチラチラと見ていた。そんな様子を見てなんか企んでるのかなあと思ってしまうが、まあいいかとさっさと教室から出ていった。


 屋上に着き扉を開けていつものように屋上へと入る。するとその途端にいきなり数人が僕を捕まえに来て羽交い締め、そして腕や足を抑えられた。


「はははっ用心深いと思ってたらそうでもなかったな」


 そう言って笑いながら話しかけてくる榊原弟。ふむ、ちょっと安易に来すぎたかなと思うけれどまあ来たものは仕方ないと


「で、なに? 僕を捉えて殴る蹴るでもするの? まあひとりじゃあんたら何も出来ないだろうしね。これで丁度いいんじゃない? 」


 と僕は少し強がりに見えるような発言をした。というよりも別に殴られ蹴られても多分耐えられる気がするから。事故から目覚めて感じたあの痛さよりましだろうと。この考えも安易かなあという気はしないでもなかったけれど。まあ捕まってしまえば今更だしな。


「ふん。お前ら顔は殴るなよ。傷が目立つところにできちゃバレるからな。さて、今日は録音はしてないみたいだな。とりあえず以前の録音が残ってても困るから」


 そう言って榊原弟はスマホを地面に思い切り叩きつける。


 ガシャン


 あーあ。壊れちゃったよ。録音は別にいいけどスマホ高いんだぞ。これは弁償してもらわないとなあと考えていたところに


「昨日お世話になった分、しっかりとやらせてもらうわ」


 そう言って主格のやつが僕の腹を殴ってくる。他の奴らは僕を抑えておかないといけないだろうから攻撃してくるのはこいつだけだろうな……


 それからよくわからない時間僕は殴る蹴るの暴行を受けることになる。痛みを感じているとどれくらい時間が経ったかなんてよくわからないものだななんて変なことを考えていた僕。でも確かに痛いけど耐えられないほどじゃないと殴られる寸前に力を入れたりして痛みを上手く和らげようとしたりしていた。それも自然に。なぜできるのかよくわからなかったけれど。


 そして榊原弟はどうも手は出さないようだ。バレても手を出さなければ逃げることは出来るってところかななんて考えていたところに


「あなた達なにしているの! 」


 そう大声で叫んで慌てて屋上に入って来たのは榊原先輩。そう、僕が放課後屋上にいつも来ていることを知ってるので昨日のように会いに来ても不思議はなかったのだった。

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