第33話 僕はやり返しますから
榊原先輩は慌てて僕の側まで駆けてきて
「あなた達離しなさい! 」
と僕を捕まえているクラスメイトに大きな声で告げる。するとクラスメイト達はどうしたら良いか迷ったのだろう榊原弟の方を見て指示を待っているようだった。
「姉さん、なんでここに来たんだよ。……仕方ない、離していいよ。そして先に戻ってて」
そう告げられたクラスメイトは「くそっ」と捨て台詞を吐いて僕を離し屋上から去っていく。
「あーいてて。彼ら馬鹿だからと思ってて油断しすぎたなあ。まあこんなこともあるかとは思ってたけど……いてて」
と僕はそう言いながら尻餅をつく。そんな僕に
「坂井くん大丈夫ですか? 本当にすいません」
と心配そうに榊原先輩は謝ってくる。そして
「広斗、あなたなんてことしてるのよ。昨日話した時は「僕はしていない」って言ってたじゃないの? なんで? なんでなのよ」
と榊原弟に向かって大きな声で問いただす。それを聞いた榊原弟は
「だから言ったじゃない。僕は何もしてないよ。側に居ただけ。手も足も出してないから。ふぅ……じゃ僕は先に戻るよ。坂井、よかったね。助かって」
そう言って、僕らの横を通り抜け、榊原弟も屋上から去っていった。
「待ちなさい、広斗。ひろとーー」
榊原先輩がそう呼び止めようとするも榊原弟は気にもせず消えてしまいもうここには僕と榊原先輩のみとなったのだった。
「いてて。榊原先輩、気にしなくていいですよ。僕も油断しすぎました。それにこれくらいの痛みなんて大したことないですよ。事故で受けた怪我の痛みのほうが何倍も痛かったですし。それになぜか知りませんが自然と受け方が分かっていたようで。もしかすると昔もこんな事やられてたからかなあ……受け続けていると躱し方が自然と身につくとかありそうですし」
僕は榊原先輩に慰めになる気はしなかったが、とりあえずは気にしないようにそう伝えていた。
「本当にごめんなさい。昨日広斗と話をしたんです。けれど広斗は「僕はしていない」って言ったんです。だからそのことを今日坂井くんに話してどうしようか考えようと思っていたのですけれど……全然違った。ただ他の人を使って手を出してないだけじゃない。なんで……なんでよ」
そう言いながら榊原先輩は俯いて目から大粒の涙を流していた。
「榊原先輩が気にすることも責任を感じることもないです。僕の側に居たいなら居てもいいです。ただ、申し訳ないんですけど弟さんにはしっかりとやり返させてもらいます。昔いじめられていたらしい僕のようにこのままやられっぱなしではいませんから。いくら榊原先輩は関係ないと言っても、弟さんは別なんで。だからそれを見たくないとか止めたいと考えているのなら申し訳ないですが僕から離れてください」
僕がそう言うと
「気にはするし責任はやっぱり感じてしまいます。けれど側にいたい気持ちは変わりません。ただ、広斗と争いは止めてほしいとは確かに思ってます。けれど坂井さんがこのまま傷つくことになるのなら私は何も言いません。というよりも今有ったことを学校側に伝えてもいいんですよ? 私も証言しますから」
榊原先輩はひとつの案として学校へ報告することを提案してきた。けれど
「いや、そんなことはしませんよ。どうせ僕にいじめができなくなったら次の標的探していじめたりするのがいじめっ子でしょ? けれど僕はそんなことさせるつもりはないですからね」
僕はそう言った後、とても憔悴している榊原先輩を慰めるように頭をなでてしまっていた。
「あっ」
頭を撫でられた榊原先輩は顔を真赤にする。そして
「いきなりそんな事されたらびっくりするじゃないですか。でも嬉しいです」
そう言って榊原先輩は嫌がることもせず顔が真っ赤なまま頭を撫でられ続けているのだった。
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