第29話 居させてください
話をしていくうちに少しずつ顔色が変わっていく榊原先輩。こうなるから僕は話したくなかったんだよなそんな事を考えながらも仕方なく話を続ける。僕の話を榊原先輩は「そんなこと……」とぼそぼそと呟いていた。その様子を見て多分弟がそんな事をしていたことが信じられないんじゃないかなと僕は思った。
僕が話を終えるとやはりかと目に涙を溜めた榊原先輩が目の前にいた。
「こうなるから話したくなかったんですよ。榊原先輩はまったく関係ないんですから。気にしなくて良いんですよ。それにまだ話を聞いただけで広斗と話をしたわけでもないですからね」
と僕は気にしないように榊原先輩に伝える。けれど
「いえ、私の弟がしでかしたことなのに関係なんて言えません。それなのに私は坂井さんにまとわり付いて……」
そう言う榊原先輩はもう決壊寸前になっていた。だから僕は榊原先輩の両肩に手をおいてから
「もし我慢できないならもう僕に会いにこなくていいですよ。辛い思いしかしないから。でも、それでも会いたいと思うならそんな事は気にせず普通に接してください。僕は別に榊原先輩のこと嫌ったりしていませんから」
と榊原先輩に素直に思いを伝えた。すると
「離れたくありませんよ。でも……いいんでしょうか? こんな私が近づいても」
彼女は素直な言葉を僕に伝えてきた。そんな榊原先輩に
「ぶっちゃけですね。記憶を忘れる前のことなんて僕には全くわかりませんからね。そんなわからないものよりも今どうしていくかのほうが僕には大切ですから。とりあえず普通に生活できるように頑張っているだけです。なので過去のことなんてどうでも良いんですよ。だから榊原先輩も過去のことなんて、僕が気にしていないことで悩む必要なんてないですから」
と僕は更に言葉を続けて考えていることを伝えていた。そんな僕の言葉を聞いた榊原先輩は
「居ます居ます……居させてください」
と言葉を発した後、僕の胸へと顔をうずめてそして泣いてしまうのだった。
しばらくそうしていると
「あー。なんで榊原先輩がいるのよ、ってなに抱きついてるの! 私に隠れて抜け駆けなんて……」
と騒がしくいつものように風間先輩がやってくる。けれど今はそんな騒ぐときじゃないと
「風間先輩、今は黙ってて。ちょっといろいろあったんだよ」
と僕が真剣にそう言葉を返すと、僕の様子に何かを感じたのだろう風間先輩は静かになって僕の方へと歩いてきた。それが分かったのか榊原先輩も涙を拭って僕の胸から顔を離す。そして今の状態にまずいと思ったのか
「風間さん、ごめんなさい。ちょっと弟のことでいろいろあったもので」
と風間先輩へと伝えていた。そんな榊原先輩を見た風間先輩も
「ううん。その様子じゃ何かあったって分かるから。もういいです。ごめんなさい、何も考えず騒いだりして。私もほんと駄目だね」
とそんな言葉をふたり交わし合うのだった。
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