第52話 僕以外にもできたじゃない



 放課後、いつものように僕は屋上に来ている。今はひとり。

 朝の出来事は榊原先輩が現れなかったことで終わりとなった。流石に登校時間までに現れなかったためみんなも心配していたけれど、後に榊原先輩とともに遅れてきたらしい榊原に聞けば


「病院に行ってから来る予定だったんだけど。だから遅れてくるに決まってるじゃないか」


 と当たり前のように言ってくれた。うん、確かにそうだ。でも……時間までに来ると思うじゃないかよ。僕がふてくされた顔をして榊原を睨むと榊原は


「ちゃんと尋ねないお前が悪い」


 と言われてしまえばそれまでだった。


 結局今日榊原先輩とはまだ会っていない。というより僕から榊原先輩の教室に行くには流石に抵抗があった。学年も違うわけで。まあそのうち会えるさと考えているうちに一日も終わったわけで。


 そう言えば、榊原と金沢ふたりとつるむ? ようになったせいかクラスメイトが声をかけてくるようになった。内容は大したことないものだけれど。でも、そんなクラスメイトに僕は興味もないので「はいはい」と流していた。

 おかげで僕がいじめられなくなったから次に選ばれないかと不安で伝手でも探しに来てるのか? なんて変な勘ぐりをしてしまう僕がいた。

 まあ、榊原も僕をいじめた原因が榊原先輩にあったわけで。誰彼いじめるわけではないだろうから問題はないと思うんだがなあ。でもみんなはいじめた原因は知らないよな。それなら心配にもなるか。


 そんな今日の出来事を考えていると


 コツン コツン


 木が当たるような音が階段の方から聞こえてきた。そして現れたのは


「やっぱりここにいましたね。やっと会えました」


「ふふふっ今日は私も一緒だよ」


 風間先輩と榊原先輩のふたりだった。風間先輩は通常、風紀委員の仕事もあるからこの時間には現れないんだけれど今日はなぜか一緒だった。

 そして榊原先輩はいつも以上にニコニコとした顔をしていた。そんなに嬉しいのかな? と思うも


「珍しいね、ふたりで現れるなんて」


 僕はふたりに挨拶がてらにそう告げる。そんな僕に


「とりあえず広斗には今日は来ないでと伝えて置いてきました」


 と榊原先輩が言うと


「私が今日は付添い。だから風紀委員はおやすみしたよ」


 と風間先輩もニコニコとして僕に言う。そんなふたりを見ていて思った。


「はははっ。風間先輩。気付いてる? 自然と付き合える友人。僕以外にもできているじゃない? 」


 そう僕がそう告げると、風間先輩は今気付いたようで……うれし恥ずかしという感じで照れた表情になって


「本当だね。でもいいのかな? 私が榊原先輩の友人って名乗っても……」


 風間先輩は少し小さな声でそう呟く。そんな風間先輩の横にいる榊原先輩は優しい表情で

 

「ふふふっ私も嬉しいわ。友人と呼べるほど仲の良い人は居なかったから。でも……こうなれたのも坂井くんのおかげですよね」


 風間先輩を見つめながらそう告げていた。それに乗って


「そうそう。坂井くんに好意を持つふたり。そしてね、坂井くんが榊原先輩を拒んだ時からね、連絡のやり取りを良くするようになって……ねっ」


 風間先輩も榊原先輩を見つめながらそう僕に伝えていた。




「そっか。僕も少しは役に立っているんだね。わからないところで。最初はどうなることかと思ってたけどね」


 そう、最初は僕の奪い合いをするかのように言い合いをしていたふたりだったけれど。今ではこうなれたかと僕は嬉しく感じていた。


「本当に坂井くんが居るおかげでいろいろと変わってきているんだよ? 坂井くんも記憶をなくして環境を整えようとしていたけれど周りにも影響がいっぱいあったんだよ。朝もそうだよね。あんなに人が集まってきて……なんだか面白いね」


 風間先輩は僕の影響が大きかったことを特に強く伝えてきた。うーん。まあ前のことはわかんないけどさ。とにかく今の僕の土台を作ろうと思って頑張ってきたわけで。それが多分以前よりにぎやかになっているわけで。


 良かったのか悪かったのか。まあ楽しければいいか。それにこのふたりがいればいいかなあ。


 ふたりを見ながらそんな事を僕は考えていたのだった。

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