第15話 変わるものなのか?



「とりあえず貰えるならもらっとくよ」


 そう金沢が伝えてきたのでアドレスを教えてもらいスマホから送信した。


「それにしてもお前も馬鹿だな」


 金沢はそんな事を僕に言ってきた。


「は? なんで? 」


「いや……俺のことばかり聞いてさ。なんでいじめの張本人が誰かを聞かない? 」


 その金沢の言葉に確かになんで僕は聞いてなかったのだろうとちょっと恥ずかしくなってしまう。とりあえず


「僕はなんにもわかんないんだよ。記憶をなくしてて。だから興味が出たものから聞いてただけだよ。決して忘れていたわけではない」


 とごまかす言葉を金沢に告げた。


「まあいいや。借りを創るのは嫌だからな。いじめの主は榊原だよ。あとは取り巻き。なぜお前をいじめていたかは俺は知らん」


 と録音の代わりだろう金沢は僕にそう教えてくれた。そうか、今日確かに睨んでたもんなあ。何かあるとは思ったがそういうことかと僕が考えていると


「まあ今後はそうそう手を出してくることはないんじゃないか? 」


 と金沢は言い出した。


「なんで? 」


「俺と喧嘩してとりあえずお前が勝ったような形になったからな。まあ俺のように手出しができないって知られているだろうから確実とは言えないがな」


 金沢はそう僕に教えてくれた。


「そっか。ありがとう」


 僕はそう素直にお礼を言うと金沢は驚いたような顔をしていた。


「なんだか気持ち悪いな。急に喧嘩した相手にお礼を言われるのは」


 そんなことを金沢は言った後


「にしても記憶を失うだけでこんなに変わるもんなのか? 」


 と不思議そうに僕を見ながら金沢は呟いた。僕は


「最初はさ。記憶をなくして失望しながらも一生懸命思い出そう思い出そうとしてたさ。でもひとつも思い出せなくて。そうなればさ、さすがに諦めも出てきて。そしてそうなってしまえばさ、いつまでも忘れた記憶を求め続けていても意味がないんだって分かった気がして。なら新しく作っていくしか無いかなってさ。そういうわけで過去がまったくない僕は何も考えず前だけ見て進めてるってわけ。後悔するものがない、気にする必要がないってことが結構な強みなのかもね」


 そう言って僕は苦笑しながらも金沢にそう告げたのだった。




 ドン


 屋上の扉がいきなり開いた。そこに現れたのは風間先輩。


「あっ坂井くん、今日もいた。やったね」


 なぜかテンションが高そうな感じで現れる。けれど金沢を見た途端


「あれ? 今日はお友達も一緒? 」


 と風間先輩は不思議そうに聞いてきた。すると


「お前、いつの間に風紀委員長を味方につけたんだ? 」


 今度は金沢からそう尋ねられる。いや……味方とかそういうもの? なのかな?


「なんか金沢との喧嘩後の事情聴取からなつかれてね」


 と僕は金沢にそう告げると


「なによ、それ。私が坂井くんのペットみたいな言い方して」


 とちょっと膨れた風間先輩が出来上がってしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る