第06話 屋上で寝ていたら



 僕は今屋上に来ていた。こっちにいけばいいというよくわからない感覚に従って着いたところがここだった。以前もここに来ていたのかな……理由はなんとなく理解できた気がした。気が弱い頃の僕だったらここに逃げ出してきたのではないかと。


 僕は脚に導かれるまま屋上の柵近くの片隅に座り込んだ。


 ああ……なぜか落ち着く。もしかして僕は前もここによくいたのかな。もう、しばらくここにいてもいいよね。どうせ今教室に戻ってもどうせ面倒くさいことになるだろうし、いやいつ戻っても一緒か? 

 はぁ、風紀の事情聴取で疲れたしなあ。もう昼ぐらいまで時間を潰して戻るかななんてことを頭の中で考えながらも壁に寄りかかりながら日差しの暖かさを感じていた。


 そうしていれば眠くなるのも当たり前で僕はいつの間にか眠っていた。そう不用心極まりない僕だった。




「こんなところで寝てたのね。起きて」


 誰かに体を揺すられたことで僕ははっと目を覚ます。するとそこにいたのは先程事情聴取を受けた風紀委員長の風間先輩だった。


「なんでここで寝てるのよ。教室に見に行ったら戻っていないって言われちゃうし、探しちゃったじゃないの」


 と訳がわからないことを言っていた。


「えーと。まだ用事ありましたっけ? 流石にまだ処罰は決まってないですよね? 」


 僕は大きなあくびをしながら風間先輩に尋ねていた。


「ええ。なにもないわよ。ただ……私が話をしたかっただけよ」


 と風間先輩にはなにか話があったようだ。

 

「えーと。なんでしょう。大したことがないなら今度でも良いですか? 眠たい……」


 と僕が言うと


「もう寝ないでよ。寝るくらいなら授業出なさいよ」


 と風間先輩はそう言って怒ってきた。いや別に僕なんてほっといていいだろうに。


「今僕が戻ったら面倒くさいことになりますよ? 喧嘩したしまだ相手が根に持っているかもしれないしいじめ仲間が何してくるかもわかんないしで少し時間を置いたほうが良いんじゃないかなってここにいたんですよ。それと事情聴取で疲れたし眠たくて」


「途中まではわかるけど最後のはなによ。あれで疲れたなんて言わないでよ。もう」


 風間先輩は怒りながらそう言うけれど気のせいかなにか楽しそうだ。それがなぜか僕は気になってしまう。


「風間先輩? なんでそんなに楽しそうなんです? 怒りながら笑ってると不気味ですよ? 」


 僕がそう言うと風間先輩は


「なんで坂井くんは一言多いかなあ。不気味って止めてよ。でもね、楽しいのは確かかな」


 と風間先輩はちょっと寂しそうに僕に笑いかけてきた。でも僕にはなんだかよくわからない。


「えーと。坂井くんを探していたのはいじめ……について話したかったことがひとつ。そして坂井くんとただ話したかったのがひとつ」


 うん、どっちにしても話したいっていうことは分かった。でもさ


「風間先輩、同情はいりませんよ。というより以前の記憶がないせいか別に悲しみなんて感じてないですし」


 と僕は突き放そうとする言葉を告げるが


「同情がまったくないとは言わないわ。それよりね。坂井くんと話したかったの。どんな話でもいいから。今日の事情聴取で坂井くんはさ、遠慮なく話してくれたでしょ。風紀なんて意味ないとか坂井くんの話はなかったことにされるとか」


 まあ思ったことを素直に伝えたけれどさ。でも風間先輩の言いたいことがわからない。それ当たり前でしょうに。


「そりゃ本音を言いますよ。というかあんなところで本音を言わないほうが馬鹿でしょ? 」


 と僕が言うと


「そうそれよ。今みたいにはっきり話をしてくれるのよね、坂井くんは」


 と風間先輩は僕を制してそう言った。

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