第54話 母さんとアルバム、そして僕
久々の3人の会話の後、風間先輩と榊原先輩そして榊原弟とともに下校した。帰りに合流した榊原弟は「姉さんから何を聞いた? 」と僕にしつこく聞いてきたが、しつこいせいで榊原先輩の睨まれておとなしくなってしまう。本当に榊原弟は榊原先輩に弱いよな。
さて、しばらく行くと帰りの方向が違う僕はみんなと別れ、そして家へとたどり着く。
玄関の鍵を開けいつものように「ただいま」と告げるが今日はいつもぱたぱたと玄関まで現れる母さんの姿は現れなかった。珍しくでかけているのかなと思いながらとりあえず僕は家へと入っていった。
すると台所のテーブルで母さんを見かけた。あるものの上に顔をつけて寝ているようだった。うん、母さんはどうもあるものを見ながらいつの間にか寝てしまったような感じだった。そして……あるものとは。
「アルバム」
僕は記憶がなくなってから見たことがなかった。というより記憶がないから何が写っているか全く覚えてさえいない。だからか僕はちらっとアルバムを覗いてみる。開いているページには僕と母さんで写っている写真…というよりそれしかなかった。昔も僕は父さんとはろくに関わりがなかったのかなと思いながらもそれらをしばらく見続けていた。
そして気づく。写真が濡れているのを。
そして気づく。母さんの頬に跡が残っていることを。涙の跡が。
そんな状況に気づいて僕は思う。確かに僕は僕だ。でも記憶の無くなる前と今の僕は多分違っていると思う。
だからたしかに母さんは僕を今まで見守り心配してくれていた…確かにそうだけれど昔の僕がいない……そのことに悲しみを受けているのではないかと。
だって今の僕よりも長い時間一緒に過ごしてきたのだから。
ふぅ……
僕も気づかないなんて本当に駄目なやつだよなと母さんの眠っている姿を見ながら向かいの席に座りため息をつく。
でもこればっかりはどうしようもない気もする。僕も出てきたくて出てきたわけでもない。昔の僕を消すつもりもなかった。そして、何もわからない僕は周りよりもこれからの生活をどうしていくことしか考えられなかった。
ほんと母さんの気持ちをわかろうとすることがなかった。
ふぅ……迷惑をかけないようにしようとはしていた。でもそれは他人行儀だったのかもしれない。
どうすればいいんだろうね。昔の僕よ。代わってくれと言ったら代わってくれるかい?
そして思う。
僕は今まで僕の場所を作ろうと頑張ってきたはずだけれど……僕は居て良いのかな?と。
問題が解決したと思ったけれど、大元の問題はまずここにあるんじゃないかなんて思いながら。
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