第49話 とりあえず最後の時間



 喜び今にもスキップしてしまいそうな勢いで帰っていった佐竹。にしても最初竹刀を持って現れたあの印象はもうかけらもなくなってしまった。というよりもなんで竹刀を持っていたんだろうか? 今になって思うと不思議なことだなあなんてことを考えてしまった。


 そんなことを考え終えるといつものようにぼーっと空を見上げて考え事をする。


 とりあえずもう問題事は片付いたのかな? 僕はそれを一番に考えていた。実際、記憶を無くす前の僕がなんで自殺を図ったのかはもうわからない。ただ一番の問題として僕がわかったのはいじめがあったということだけだ。それももうなくなった。ただ、記憶をなくしたおかげで勉強がさっぱりわからないという問題はあるが。これも風間先輩に教えてもらってこれから取り戻していけばなんとかなるかな? 

 うん、とりあえず普通に生活していける土台はできたと思う。これから僕はやっと普通に生活していけると思う。


 けれど……記憶を無くす前の僕。これでよかった? 

 なんだかいじめを受けていた相手まで一緒に過ごす形になってしまったけれどこれで納得できるか? 

 でももう、面倒くさいことは今の僕は欲しいと思わないから。これで許してくれないかな? 

 あと……記憶を無くす前の僕も心配だろう母親のこと。これできちんと説明して安心させれば……少しは落ち着いてくれるだろうか?


 今日にでも母親に帰ってきちんと説明しようと僕は考える。最初の頃は僕自身も良くわからない学校生活だったから毎日深く説明していたけれど、ここ最近は尋ねてきても「問題ないよ」と伝えるだけだったから。だって学校生活を送っていくにつれてきちんと解決しないと母親に何度も説明しても安心はしてくれないと思っていたから。


 そんな事を考えていればいつものように時間が過ぎていく。そして現れるのは


「あっいたいた。いつものようにいたね。こんにちは」


 そういって現れるのは風間先輩。いつものように見回り中なんだろう。


「こんにちは。日課だから。それにここで考え事をするのが僕にとって一番良い気がしてるから」


 僕は風間先輩にそう告げる。そう、空を見ながら考え事をするにはここが一番良い場所だと僕は思っている。


「ふふふ。そういえばふたりきりで居られるのは今日までか。来週から榊原先輩、復帰するからね。復帰は嬉しいんだけれどちょっと残念」


 ちょっと複雑な顔をしてそんな事を言う風間先輩。確かにふたりきりにはなかなかなれないだろうなあ。昼休みの勉強ももしかすると榊原先輩も来るようになるかもしれない……そんな気が僕はしていた。


「たしかにそうかもね。榊原先輩が昼休みのことを聞いたら私も来るって言いそうだしなあ」


 僕がそう答えると風間先輩も


「確かに……まあ榊原先輩のほうが頭も良いだろうからねぇ。私いらなくなるかも? 」


 と少し冗談半分にそんな事を言う。あれ? なんだろう。その言葉に少し違和感がして


「風間先輩、どうしたの? なんだか落ち込んでない? 」


 僕は素直に風間先輩にそう尋ねる。すると


「え? うーーん。なんだかね、榊原先輩のほうがいろいろとあって坂井くんに近くなっている気がして……はははっなんだか弱気になっちゃってるね」


 確かに榊原弟のことで榊原先輩に関する出来事が多かったことはある。でも


「たしかにそうだけれどさ。でも何もなくても僕の一番近いところにいつもいるのは風間先輩と思うけど。勉強も教えてもらったり、榊原先輩のように離れることなんてなかったし。最初に泣いて友達になってなんてそんな姿まで見せる人他に居ないし」


 と僕がそこまで言うと風間先輩は顔を真赤にして


「もうそのことは忘れて。そりゃ恥も外聞も捨ててお願いしたけど……蒸し返されると恥ずかしいから」


 と僕に言い返してきたのだった。




 そんな話をしているとひとつ思い出したことがあった。


「風間先輩。そう言えば白石先輩どうなった? 」


 そう、風間先輩に好意を持っているようだった白石先輩。困ったりしていないのかな? と気になったので聞いてみると、少し微笑み気味な顔で


「え? 気になってくれるの? ふふふっ嬉しいなあ。うーーん、声をかけては来るけど風紀委員の仕事以外は相手にしていないかなあ。というよりも結構しつこかったりしてあんな人だとは思ってなかったわよ。ふぅ……坂井くんが現れて焦ったのか本性が出たという感じなのかな? 」


 とどうも今まで白石先輩はいろいろと隠していたらしい。


「とりあえず気をつけてね」


 と僕がそう言葉を告げると


「ふふふっ、わかったわ。気をつけるね。うん、こうやって好きな人に心配されるって不謹慎だけれど嬉しいわね」


 そう言って嬉しそうに笑う風間先輩。

 とりあえず問題はなさそうで安心する僕であった。


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