すべてを無くした僕は1(イチ)から僕をつくりかえる

ここです。

第01話 白紙になって



 車に引かれた……いや引かれに行ったんだった。


 すごく痛い。でもね、生きている方がもっと痛かったんだよ。


 わかんないだろうね。この気持ち。


 はぁもういらない。こんな世界。


 これでやっと僕は救われるのかな…………






 僕は全く白紙になった。


 なぜ? それは車道に飛び出して自殺未遂をしたということだった。

 自殺? 理由はよくわかっていなかった。僕は遺書や書き置きを何も残していなかったそうだ。

 らしい? そう僕はどうも記憶喪失らしい。何も思い出せなかった。その割にはきちんと言葉が話せたりしてて不思議なものなのだが。


 そして……僕は以前と変わっているらしい。なにがって? 以前はビクビクしておとなしい性格だったらしい。けれど今はどちらかと言うと強気な性格になっているんではないかと言われた。

 病院の先生からそう言われて思う、そうなるのも仕方ないんじゃないかなって。だって僕には以前の記憶がないのだから。怯えるものも逃げたくなるものも思い出せないのだから。そして、同様に喜びもまったくないわけで。そんな中ではやれることをやって強引にでも前に進まなきゃなにも得られないのだから。


 1(イチ)から得ていかなければいけないんだから。

 

 それでも記憶がなくなったからと言って何もできなくなるわけでもなかった。しゃべることも出来るし道具の使い方なんて覚えていて不思議な感覚だった。病院の先生によれば生活に必要な知識だけは残っているようだと。今回の記憶喪失で考えられるとすれば嫌な記憶に蓋をされたせいかもと。まあ僕には何が良くて何が嫌だったのかはわからない。覚えていない。もう僕には真っ白な世界しか見えやしないんだから。



 そんな僕、坂井 繁さかい しげるは今、城山学園しろやまがくえんに通う1年生で以前から通っていたこの高校の校門にいた。記憶を失ってからそろそろ一ヶ月程度経ち怪我も治っていたことから学校へと復帰しようと僕は思い今日はやってきたのだった。

 けれど両親は少しでも記憶が戻るまでは休んでいたほうが良いのではと僕に言い聞かせようとしていた。けれど何があったのかなんて憶えていないにも関わらず、なぜか怒りが収まらなく「行く、行かなきゃ」と押し通していた。


 でも僕は何がしたいのだろう……真っ白な記憶ではさっぱりわからない。

 それでも僕はしたいと思ったことをしていこうと思っている。だって……今の僕にはそれしか道標がないのだから。




 母親は心配して校門まで送ってくれたがここからは僕一人でいいよと帰ってもらっていた。なぜかわからないけれど一緒に来てほしくない気持ちがあったからだ。それに事前に学校の下見をしていたので問題ないとも思えたから。

 

 僕は1年2組らしかった。僕は靴箱の場所がわからないからと家から上履きを持ってきており構内に入るとすぐに上履きへと履き替えた。そしてそのまま靴を袋に入れ持ち歩くことにする。


 下見に来たといっても詳しくなったわけではない。あくまで大体の位置が分かる程度。だから僕は校内地図を探し確認することにした。


 僕は地図を確認し教室へと向かっていった。教室に向かっていくにつれて僕を周りの生徒たちがジロジロと見てくるようになった。同級生だろうか? 校門まで来る際はそこまで視線はほとんど受けなかったのだけれど……記憶がないから視線の意味もわからない。まあわからないなら気にしても仕方がないと気にしないようにした。


 記憶をなくしてからの僕は大抵のことは気にしないという考えをするようになっていた。というのも気にしても仕方がないから。白紙になった僕にわかることなんてろくにあるわけがないのだから。


 ガラッ


 僕は教室に着くとすぐに扉を開けた。するとクラスの皆……ではなかったけれど多くの人が僕をジロジロと見始めた。けれど僕は気にしなかった。知らない顔ばかりだし、気にしても仕方がないのだから。


 でもよくよく考えたら自分の席がわからなかった。はははっ記憶がないって不便だなと思うのだった。


 

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