第08話 諦めた僕は



とりあえず泣かせたまま放置なんてできないなと僕は諦めたように


「分かった、分かりましたよ。友達になれば良いんですよね。たまに話すくらいならってことで」


 風間先輩にそう答えるしかなかったのだった。はぁなんだかんだ甘いんだなあ、僕って。


 それを聞くと風間先輩は


「ほんと? ほんとにほんと? 嬉しい。なら気軽に話してね。話しかけてね。もし話しづらいなら私から声をかけるから。それにいじめの方もどうにかしないとだもんね」


 ところっとかわって喜びが前面に出ているようなそんな顔で僕に話しかけてきた。そんな風間先輩を見てしまうとまあいいかと思えた僕もいたりして。


 ただ、そんな風間先輩とのやり取りによって人付き合いの記憶がないせいなのか僕って感情表現を受けると弱いんだなとそんな感覚をわからせてくれた気がする。




「あっ風間先輩。いじめの方は何もしなくていいですよ」


 僕は風間先輩に手出しはしないように伝えておいた。というのも僕にもよく分かっていないことなんだ。記憶のない頃に受けていただろうと言うことしか分かっていないわけで、今の段階で他人に入ってこられても僕が混乱するだけだと思ったから。

 そう僕自身がまずは理解しなければいけないと。


 それに別にクラスメイトからなにかされたとしても今の僕には何も響かない。だって全く知らない赤の他人という感じしか無いのだから。記憶を失うと辛いことなのかなと最初は思っていたけれどそう捨てたもんじゃないなと今の状況なら感じてしまうんじゃないかな。


「それと風間先輩って目立ちますから僕に対して目立つことはしないでくださいね」


 そして僕は目立ちたくないことを風間先輩に伝えておく。何もわからないそんな時期に目立ってどうする? 知らない人に興味を持たれても困ることしか無いのだから。この風間先輩のように……


「え? 目立つことって何? 何をしたらいけないの? よくわかんないわ」


 風間先輩はそう言ってくるので


「人前で話しかけないこと。多分これを守ってくれたら目立たないと思いますよ」


 僕はひとつの案を話しておいた。すると


「え? 駄目なの? というよりそれで目立っちゃうかな? 」


 ちょっと困惑した顔で僕に聞いてくる風間先輩。


「自分の容姿や今いる立場を考えたほうが良いですよ? 風間先輩。じゃ教室に戻りますので」


 と僕はこれ以上話していても仕方ないかなと教室に戻ることにした。


「え? もう行っちゃうの? それに戻って大丈夫なの? 」


 と風間先輩は僕のことを心配してかそれともまだ話したいのかわからないけれど少し悲しそうな顔をしていた。


「ええ。別に怖くてここにいたわけじゃないですし。少しでも周りが落ち着いていたほうが楽でしょ? 」


 と僕は屋上を後にするのだった。




 そういえば風間先輩って僕を探すために授業サボったのかな? 風紀委員なのに? それとも権限行使で? なんて本当に今更なことを考えながら。


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