第56話 自信を持って
「でも、急にどうしたの? 言っちゃ悪いけれど坂井くんらしくないなあ」
うん。いつもらしくないことはわかっている。というより今までこんな事は考えたことがなかった。記憶がないことばかり考えて今後どうやっていくか、そればかりを考えていたから。
心配そうに僕を見てくる風間先輩になら素直に話しても良いよなと思い昨日のことを話すことにした。
そんなに大したことじゃないかもしれないけれど僕にとっては大事な事なのかもしれない。
今の僕
昔の僕
何が違うのか僕にはわからないけれど周りの知っている人から見ればきっと違うんだろうと思えるから。
そして今の僕に入れ替わったことが周りの人に影響を与えているのかもしれない……昨日の母さんのように。
話を聞き終えた風間先輩はふっと優しい笑顔を浮かべて
「私、思うんだよね。確かに変わったという部分があるのかもしれない。私はわからないけれどね。でも……それでも坂井くんは坂井くん。それは変わらないと思うよ。確かに坂井くんのお母さんは昔を懐かしんで……思い出して泣いたのかもしれないけれど。それは仕方ないと思う。急激に変化があったから。でもね、人は変わる。変わるんだよ。ただ、今回は記憶をなくしたという事象があったから変わったということが大きく見えただけだと思う。そう……人なんて変わるんだよ。というより変わるのなら良いと私は思うんだよね。変わったんじゃなく本性を出して変わったように見える人だっているんだから」
そう言ってちょっと笑う風間先輩。
人は変わるか。そして変わっても僕は僕……か。
確かに入れ替わったわけじゃない。
ただ昔の記憶がなくなっただけ……か。
僕がそんな事を考えていると
「私ね。あえてつけるけど「今」の坂井くん。本当に好きだよ。結構面倒くさいとかスルーしたりとかするけれど……懐が広いというか……だって私や榊原先輩を近くに置いてくれて。それにね。坂井くんに被害というか嫌な思いをさせてきた人も近くに置いているじゃない? 確かに昔のことは忘れているかもしれないけれど、いじめてきた榊原先輩の弟さんや喧嘩した金沢? くんだっけ? そして嘘をついた佐竹さん。そういう人でさえ受け入れているんだもん」
風間先輩はそんな事を続けて言ってきた。うん、確かに普通なら避けてしまう人たちかもしれない。けれどそれに対して僕は
「……でもね。もしかすると僕には人間味が足りないだけかもしれない。どうでもいいとか……」
と思わず自分を否定するような言葉を告げてしまう。そんな僕に風間先輩は
「ううん。それはないよ。だって榊原先輩の弟さんとか坂井くんと話している時楽しそうに見えるよ? もし坂井くんがそんな人だったなら榊原先輩の弟さんも多分頻繁に声をかけてこないと思う。というより私も榊原先輩も近くに居ないと思う。好きになっていないと思う。だから……自信を持っていいと思う。坂井くんは良い人。そして……必要な人だって」
そんなことはないと強く僕に自信を持ってと告げてきたのだった。
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