第47話 金沢くん



 それから僕たちは榊原先輩の復帰について聞いてから帰宅した。榊原先輩は今週いっぱい入院して来週から学校へ復帰するとのことだった。帰り際「松葉杖をついて通学することになるだろうから坂井くん手伝って下さいね」なんて言葉を榊原先輩に告げられて僕は断るわけも行かず素直にわかったよと伝えたのだった。

 ちなみに、風間先輩は「うまいこと怪我を利用してるわね」と感心している様子で榊原弟に至っては「俺がいるのになあ」と少しむくれた感じで宙を眺めてはぼーっとした様子になっていた。




 翌日、学校につき教室に入るとすぐに金沢が僕に声をかけてきた。クラスメイトはちらちらと僕と金沢を見てくるがまあ関わってくることはないだろう。

 というよりも金沢……今日来るの早いなと僕は思いながらも


「金沢、おはよう。どうした? こんなに早く来るなんて珍しい」


 僕はいつもの時間だけれども金沢はぎりぎりにしか教室に入ってこない。まあ、教室に居ても楽しいことは特にないしなあと僕も思うし。そんな金沢は


「ああ、話があってな」


 と言ってきた。どうやら僕に話したいことがあるらしい。僕とつるむことさえあまりしたくないと言っていた金沢がこうやって話しかけてきたのだから大事なことなのだろうかと考えるも


「えっとここで話してもいいのか? 」


 と僕はクラス内を見渡した後そう聞いた。まあクラスメイトは気になっているようでも僕たちに丸わかりな態勢では見てこないよな。すると金沢は


「ああ、大したことじゃないから」


 と話の内容は大したことじゃないらしい。なんだ? まあ聞いてみないとわからないかと僕は金沢を見て聞く態勢を整えた。そんな僕を見て金沢はちょっと尻込みする感じではあったが僕に話し始めるのだった。




「ああ、坂井。お前、榊原とも一緒に居るようになっているよな? どうしてそうなったかよくはわからないが。まあそれはいい。榊原から俺ももう手を出さないって言われてるしな。それでな……お前、榊原先輩とよくいっしょに居る……よな? その時……俺も来ていいか? 」


 と少し顔が赤くなりながらもそんなことを僕に伝えてきた金沢。


 いや金沢くんだ。


 はぁ……榊原弟に続いて金沢、お前もか。榊原先輩がもてるのはわかっていたが……変わり者が多すぎだろ? 


「はぁ……金沢、お前さ。榊原先輩が気になるってことか? 」


 と僕はずばりと金沢にそう尋ねるとより顔を赤くして


「ああ……って榊原先輩がお前のこと気に入ってるのはわかってんだよ。でも少しでも近くに……と思って。笑うなよ! 榊原もおとなしくなったしな。もしできるなら頼めないかと……」


 そう僕に告げていると、そんな金沢の後ろから声がかけられた。


「はぁ……お前もか。姉さんもてるのはわかってたけどまさかなあ」


 声をかけてきたのは榊原。でも別に怒っている様子はなかった。あれだけ姉さん姉さんって言っているくらいだからこの話を聞いたら怒るかと思っていたんだけれど。


「榊原、おはよう。ってか怒んないんだな? 」


 と僕がそう榊原に言うと、榊原は呆れたような顔をして


「まあな。姉さんがもてるのはわかっているから。俺が坂井に手を出したのは姉さんが坂井のことを気に入っていたから。こっちは姉さんの意志だからな。だからお前を潰せるなら潰したいって思ったわけだから……姉さんがもてるのは相手からだしどうしようもないしな。もう昔からだから諦めてるわ」


 と僕らにそう告げるのだった。


 まさか榊原が聞いているとは思っていなかった僕と金沢。金沢はもうこれ以上赤くならないぞというくらい顔が赤くなり黙りこくっていた。そんな金沢に


「ああ、金沢。俺は別に問題ないぞ。後は坂井次第だね。さっき言ったとおり姉さんがもてることに関してはもう気になんないから。ただし、姉さんは坂井に惚れてるからな。これを覆すのは難しいと思うぞ。俺も結局おとなしくすることにしたんだしな」


 となぜか榊原は金沢を認める言葉を発していた。おまけで榊原先輩が僕のことを気に入っていることまで。


「ああ、それは俺もわかってるって。はぁ……まさか榊原にまで聞かれるとはな。俺と坂井に寄ってくるやつなんて誰も居ないって思ってたから……失敗したな」


 そう言いながら金沢は今にも頭を抱えこみそうなそんな態勢になっていた。そんな金沢に


「まあ気にするな。そんなやつはいっぱいいるさ。それよりも近くに居られる伝手があるってことで喜べ」


 と榊原は僕を見ながらそんな金沢を慰めるように告げるのだった。ってなんだかおかしいわ。この前までいがみ合っていた3人がこんな状況なんてね。僕はそう思いながらくすくすと隠すように笑っていると


「坂井、何笑ってる? 」


 と金沢からムッとした顔でツッコミが入った。だから僕は


「ああ、悪い。別に金沢のことを笑ってたわけじゃないよ。僕たち3人この前までいがみ合ってたのにさ。今こうやって3人で会話してるし、榊原に至っては金沢を慰めようとしてるしね。それがおかしくてさ。えっと金沢、別にいいよ? いつでも入ってこい。もう別に境なんてものはなんにもないからな」


 と金沢に伝えるのだった。ほんとこいつら変だわ。というか僕もその仲間になるということなのかな?

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