第10話 日課だったこと



 放課後、僕はもう帰ればいいだけのはずなのに屋上へと足を向けていた。クラスメイトなど気にもせずに。もう学校に何かあるわけではないけれどそうしてしまったのは病院での名残かと。病院で屋上に行っては空を眺めてた。そんな時間を多く過ごしてきたから。


 屋上に着くと僕はさっき眠ってしまった同じ場所に座り込む。そして空を見上げてぼーっとする。


 心の方には問題は無かったようだけど体の方はどうも疲れているような気がした。まあ朝から僕へのいじめがわかり、喧嘩してわからない授業を受けて……なんてしていたら疲れるのも当たり前なのかもしれない。


 そして考えるは頭の中。今あるのは両親だけ。記憶を失ってから残るものとして増えたのはまだこれだけだった。病院の先生や看護師にも会いはしたけれど頭に残るものではなかったから。


 でもいつの間にかひとり増えていた。誰かと思えば風間先輩。まさか泣いてまで僕に友達になってほしいと迫ってくる人が現れるなんて思っていなかった。そんなことを思い浮かべると少し笑みが出てしまう。

 アカの他人なんて気にならないなんて考えていたくせに人恋しいなんて気持ちがあるじゃないだろうかとまだ良くわかっていないそんな僕の気持ちと向き合っていた。


 そんな時間を過ごしていれば次第に空は黒へと染まっていく。さてそろそろ帰ろうかと思っていると屋上の扉が開いて。入ってきたのは風間先輩。


「きゃ誰か居たのね……って坂井くんじゃない? 何してるの? 」


「え? 空を眺めていただけですけど? 」


 僕は風間先輩の問いに素直に答えた。


「空? なにか見えるの? 」


 風間先輩はなにか見ているものだと勘違いしているようだ。まあ普通はそんなことで空を見たりするんだろうなあ。僕は何かを見ているという感じじゃないから。ただこの広い空を見上げていると僕の真っ白な世界とリンクしているようで。なぜか落ち着いて物事を考えられる、ただけそれだけだから。


「いえ。空だけですよ。まあ病院でしていた日課みたいなものですかね。先輩こそどうしたんですか? こんな時間に」


 僕は先輩こそなぜここに来たんだろうと尋ねてみた。


「風紀委員ですから。見回りをしていたんですよ」


 ああ、そういう仕事もあるんだなあ。僕はその話を聞いてなら立ち去るかなと立ち上がった。


「え? もう戻るの? 」


「ええ。見回りしているなら残ってちゃ悪いでしょ? 帰りますよ」


 僕は風間先輩にそう答えた。すると少し照れながら風間先輩は


「ねぇ坂井くん。よかったら少し話をしない? 坂井くんを教えてくれない? 」


 と話をしたいと僕に伝えてきた。


「風間先輩見回りがあるんじゃ? 」


 と僕が言い返すと


「だって今なら目立たないでしょ? だから少しぐらい付き合ってよ。少しくらい見回りが遅れてもいいから」


 と風間先輩はそう告げてきた。というか風間先輩積極的だよなあ。それなのになんで壁なんて出来るんだろ。よくわからないな。


「まあ少しなら良いですよ」


 僕は風間先輩に了解の意を伝えた。




 でも後になって僕は思った。なんで風間先輩に付き合って話をしようと思ったんだろうと。いつもなら関係ないなと断りそうなものなのにと。


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