48回目のプロポーズ

十文字心

番外編

【番外編】本屋とブルーマウンテンと昔話と。

【KAC20231】

一回目のお題「本屋」


年下彼女のはるさんと、アラフォー男稜さんが閉店する本屋に行くお話。稜さんのほのぼの昔話です。


最新話、日曜日までに更新予定です。


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少し遅めに起きた私は、挽きたての豆で入れた香り高いコーヒーを飲みながら先日買ってきた文庫本を読んでいた。何故休日なのに一人なのか?それは運動不足解消の為にとジョギングに行ったきり彼が帰宅しないから。何かあったのかな?とも思ったが静かに本を読むという行為は彼が帰ってきてしまっては出来ない事の一つなので、連絡もせず至福のひとときを楽しむことにした。


気づけば時刻は昼食の準備をしなくてはならない時間。ん?流石に遅いな。読んでいた本に栞を挟みスマホに持ち替えた刹那、玄関の方から慌ただしい物音が聞こえてきた。

うん、賑やかなのが帰ってきたみたい。


「稜さん、おかえりなさい。今日は随分遅かったけど寄り道でもしてたの?」


『ラブリーはるさん、ただいまーー!今日は早く出たし少し遠くまで行ってみようと思って、上京したての時に住んでいた下町まで行ってみたのよ!そしたら、なんと!俺がピチピチヤングだった頃にお世話になった本屋の店主に偶然会ったんです!懐かしくて話し込んでたらこんな時間になってしまいました!さみちかったでしゅか?』


返事はせず、無言で見つめてると

そんな事はお構い無しと言わんばかりに

また口を開き出した彼。


『あ、そういえばねその本屋さん時代の流れには勝てないのと後継者がいないとかで今月閉店しちゃうらしいのよ。彼女が本好きって話ししたら安くで譲ってくれると言ってたので、はるさん行ってみますか?』


若い時から彼の人懐っこさは変わっていないのか。稜さんがお世話になった本屋というのも気になるし是非とも伺おうではないか。


彼は午後から少しだけ予定があると言っていたので、場所を聞き大きめのエコバッグを持って私はその本屋へと行ってみることにした。


彼に教えてもらった本屋は、昭和情緒漂う商店街の一角にひっそりとあった。言われなければ本屋とはわからない様なたたずまいで、どちらかと言うと純喫茶を彷彿とさせる店構えだ。

一度深呼吸をし、木製の扉を引いてみる。

少し薄暗い店内は壁一面が本棚になっており、店の奥には何故かカウンターと回転式の椅子が何脚かあり見た目の印象通りもはや純喫茶だ。


レトロな店内を見て回っていると、一番奥の通路に一人の女性が真剣な眼差しで本を吟味していた。お、お客は私だけじゃなかったのか。店員の姿も見えなかったことで不法侵入みたいだなと、少し不安を覚えていた私は安堵した。女性はまだ私には気づいていないようだ。本を見ながら横目で女性を観察していると、その女性は慣れた手つきで本棚から本を取り、肩にかけているバックに何冊も入れていた。

え!!ま、万引き??

どうしよう、声をかけてみたほうが

いいよね…閉店する店とはいえ

万引きは立派な犯罪だ!!


「あの、こんにちわ。」


突然現れた私の姿を見て、少しだけ驚いた表情を浮かべた老年の女性。


「あら、お客様がいらしていたのね!気づかずにごめんなさい!歳のせいか、耳も遠くなってしまって、本の整理をしてたら周りが見えなくなってしまうの。古い本ばかりだけどゆっくり見てくださいね。」


軽く会釈をして、女性は奥の純喫茶感漂うスペースへと行ってしまった。


あ、店主さんだったのか。

本の整理をしている店主に向かって万引き犯呼ばわりしたと稜さんに知れたら一生ネタにされるのがオチだ…


暫く本を物色した後に、店主の方へと歩いて行くと次は私の気配を察知したのかすぐに気づいて微笑んでくれた店主。


『あの、もしかして”はるさん”かしら?人違いだったらごめんなさいね。』


「あ、そうです、素敵な本が沢山置いてあると西園寺に聞いて伺いました!」


『ふふ、午前中に汗だくの稜君が突然きた時には驚いたわ。もう、何十年ぶりなのにちっとも変わってなくてよく喋る!はるさんはコーヒーはお好きかしら?よかったらご馳走するから飲んで行ってね。』


私が頷いたのを確認して食器棚からカップを出してお湯を注ぎ、温めているその間に豆を挽き手早く機械の準備をしている女性の動きは無駄がなくとても美しかった。


『はいどうぞ、口にあうといいけど。これは私の好きなブルーマウンテン。このコーヒーはね、稜君も好きで仕事終わりにきては何時間もお喋りながら何回もおかわりしてたのよ?』


ここでコーヒーを飲んでいる彼を想像しながら一口頂く。あー、最高だ!店の雰囲気も相まって人生で最高のコーヒーと言っても過言では無いかもしれない。


「もう、最高のコーヒーです!稜さんは普段コーヒーとか頻繁に飲んでいないんですけど、ここのコーヒーを知ってるから飲みたくないのかもしれないですね。家ではお酒ばかりです!」


『ふふふ、あの子らしいわね。今朝も昔話で盛り上がってね?初めて来た時はまだ東京に馴染めないとか、仕事が大変だとか、良く私に愚痴を言ってたの。そう言えばこんな事言ってたわよ!彼には私が話した事は秘密ね?」


「わかりました。内緒にしておきます。」


『あの子ね、いつか結婚を考えるような彼女が出来たらここに連れて来て、私に紹介するから!なんて言ってたのよ?明るい性格だし顔も悪くないと思うんだけど、全く女っ気がなかったのよ。結局一緒に来る事なんてその当時はなかったんだけどね。引越して会う機会も全くなかったんだけど、まさかこんな綺麗な彼女が出来ていたなんて、長生きするのも悪くないわね。」


新入社員の時は確かに覚えることが多すぎて恋愛に時間を費やすという頭がなかったなということを思い出した。稜さんも普通の人間なんだな。


「仕事帰りにここにきて、コーヒーを飲みながらゆっくりしたくなる気持ちわかります!とても素敵な場所なのに、閉店されるんですよね?」


「そうなのよ、残念だけど私もいい歳だしそれに跡継ぎもいないしね。今の若い人はインターネットで本を読んだりするんでしょ?ここみたいな店は時代についていけないのよ。貴女も気がついたと思うんだけど、自慢じゃないけどここの棚の中には初版本とかも沢山あるし、そこそこ価値のある本が沢山あるのよ?売ればお金にはなるんだろうけど、本当に本を好きな人に読んでもらいたいの。そんな話を稜君に話したら、彼女が本好きで良く読んでいるって聞いたから連れてきなさい!って言ったわけよ。だから遠慮せずに好きなのを選んでよね!」


それから店主お勧めの本や読んだことのある本について語っていると、気づけば日はすっかり落ちていた。


「あれ!もう、外が真っ暗ですね!長居してしまい申し訳ありません…」


片付けて、帰ろうとしていると

店の扉が開いて賑やかな声が聞こえてきた。


『もう、はるさん!何時だと思っているのよー!!あ、みっちゃんこちらが俺の彼女のはるさんです!どう?綺麗でしょー??』


「もう、そんな話はいいから!」


二人の掛け合いをみて、みっちゃんは

笑っていた。


『稜君、夢が叶ってよかったわね?はるさんはとても素敵な人でした。大事にするのよ?』


『へっ?へっ?うん、何かわからないけどありがとう!はるさん以上の人は俺にはいないからさ!』


どうやら彼は、昔言った言葉は覚えていないようだ。

その後三人でまた、ブルーマウンテンを楽しみ

私の知らない稜さんの話をたくさんきいた。



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